第8話

「それでは菓子作りを始めましょう。」


「これがウスさんが言っていた珍しい果物ですか?」


「形も珍しいね。」


 市場から帰ってきた三人はノロの屋敷のキッチンでお菓子作りを始めようとしていた。

 結局、ヤマ達を見失ったウスは一人で市場で買い出しを済ましたのである。

 ヤマ達が見つかったのは買い出しが終わってすぐだった。


「宜しくお願いします。」


「そう畏まらないでください。同じ従者として互いに高め合いましょう。」


「ウスさんは真面目さんですねー」


「貴方はちょっとでも見習いなさい。」


 既に椅子に座って二人を見ているライクはウスが切り分けた他の果物を摘みながら和んでいた。

 そんなだらしない格好をするライクにヤマはもう少ししっかりして欲しいと思っていたのである。


「それでウスさん。この果物で何を作るんですか?」


「この果物はフリーツ。通称大きなチェリーと言われるほど味や食感がチェリーに似ている果物なんです。なので、今回はパイにしてみようと思います。」


「おぉ、チェリーパイ。良いですね。今から完成が楽しみです!」


 味見は任せてください!と豊満な胸を張るライクに少しは手伝いなさいと無理矢理椅子から立ち上がらせて働かせるヤマだった。


「ヤマさんは私と一緒にフリーツを捌いていくので、ライクさんはパイ生地をお願いします。」


「分かりました。」


「はーい。」


 ウスはヤマにフリーツの切り方を教えながらライクの様子を見ていた。


「意外ですか。」


「そうですね。失礼ですが、ライクさんがここまで器用だとは思っていませんでした。」


 ウスの目にはさっきまでのダラけて仕事しないライクと違って真剣な表情で完璧なパイ生地を作っているライクの姿があった。

 マリアの従者筆頭だけあって料理くらい一通り出来ると確信していたが、予想以上の出来に驚いていた。


「あの子は昔からなんでも出来る子です。そのせいかいつもはなんでも面倒臭いものにしか感じないらしくてやる気がありませんけどね。」


 やればできる子なんですと言うヤマの顔は何処か遠くを見ている様だった。

 天才型のライクに少し羨ましく思ったウスだった。


「それでは毒抜きをします。」


「砂糖水で煮詰めるのですか?」


「えぇ、フリーツは種まで美味しく食べられる果物ですが、その種には毒があります、大概な毒に耐性を持つアマゾネスでも一粒で昏倒する猛毒です。誤って生で食べないでくださいね。」


 フリーツの毒も砂糖水で煮詰めたら無毒化する事が可能なのである。

 それどころかより甘味と艶が増して美味しさアップするのだ。


「出来た!!」


「お疲れ様でした。」


「おや?そちらは?」


 ライクが甘い香りを出している完成したフリーツパイを見ながら涎を垂らしているのを見て涎をパイに落とすなと涎を拭くヤマの横でさっきまで作っていたフリーツパイがもう一つウスが持っていた。


「これは昨日作っておいたフリーツパイです。こちらは乾燥フリーツなので、このパイとはまた別で美味しいですよ。」


「いつの間に冷蔵庫にしまっておいたのですか?」


 ノロの屋敷の冷蔵庫から出したパイを出した事を不思議がっていた。

 市場で買い出した後に城に寄って持ってきたのである。追いかけっこしていた二人が帰ってくる時には冷蔵庫に仕舞われた後だった為、気がつかなかったのである。


「今日は親睦会という事でこの乾燥フリーツパイで茶会しませんか?」


「・・・ふふ、良いですね。ノロ様達には内緒ですよ。」


「わーい!お菓子だ!!」


 少し親睦が深まった三人だった。

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