第5話

「ほら!ほら!どうした!魔法の前じゃ!!その筋肉も無力か?!!」


「くっ!」


 ローズネスは氷魔法を使って闘技場の全てを凍らせた。

 ウスの身体にも所々凍らされていた。

 近づいて攻撃しようにも氷にガードされて触れた瞬間、その部分が凍るのだ。


「ローズネス様が男相手に魔法を使うなんて初めてじゃない。」


「それだけ、彼が強いって事でしょう。流石、アリセシア様の男従者ね。そこらの雑魚とは格が違うわね。」


 ローズネスの同級生達が珍しそうに観戦していた。

 アマゾネスは元々身体強化の魔法は得意だが、氷魔法の様な魔力を外に出して変換させる魔法は苦手としていた。

 そんなアマゾネスの中で王族だけは氷魔法の様な属性魔法と呼ばれるものも得意だった。

 ただ自分で肉を断ち、壊す事が好きなアマゾネスは滅多に属性魔法どころか弓などの遠距離武器を使うことすら稀だった。

 ローズネスはそんな中一定以上気に入った相手には魔法を使う癖があった。


「舐めないでください。この程度の氷で私の筋肉を阻害できるとは思わないでください。」


「へぇ、筋肉の運動によって生じる熱で溶かしたのか。そんな温度を魔法を使わずに全身を覆えば脳も内臓もダメージを負うだろうが、お前には無さそうだな〜ウス。」


 万筋で覆われているウスにとってこの程度の氷で芯まで凍ることはなかった。

 それを見たローズネスは猛獣の様な笑みを浮かべながら長考していた。

 そして、万筋の特性に気がついた。


「その筋肉はただ剛筋ごうきん柔筋じゅうきんの特性を併せ持っているだけじゃないな。それだけの筋肉で俺の氷は防げるわけがねぇ。」


「見事ですね。この短時間で私の筋肉について理解し始めるとは。」


「少なくても筋肉を何重にも層にして身体を覆っているな。その上で激しく動かしてもお前には全く疲労が見えない。心臓の様な一生動かしても大丈夫な筋肉の特性を持っているな。」


 ウスの万筋に疲労はない。

 従者として365日24時間主人の側で働いても大丈夫の様に筋肉を鍛えたのだ。


「あははははは!!最高だな。お前を見ていると俺も更に強くなれる気がする。多分、こんな感じか?」


「は?!くっ!」


 ローズネスは高笑いをすると氷に覆われた拳でウスを殴り飛ばした。

 ウスが驚いたのは殴られた瞬間に全身を凍らされそうになったからではなかった。

 殴られて感じたローズネスの筋肉の感触は正にウスが通った万筋の初期版だった。

 ローズネスは見ただけで再現したのだ。

 圧倒的な才覚にウスも冷や汗を流して内心驚愕していた。


「やっぱり、お前凄いな。こんな力を自力でたどり着いたのか?!決めたぞ!!」


「これはまずい!!!」


 嫌な予感がしたウスは急いでローズネスから距離を取ろうとした。


「遅かった!」


氷像製作アイスメイク!」


 ウスの万筋すら貫通する絶対零度の氷によってウスは氷像となって闘技場に作られた。


「あは〜やっぱり最高だな。この筋肉に、顔、全てが最高だ。喜べ、ウス。お前はそうだな・・・一年は俺の自室に飾って愛でてやろう。」


 ローズネスは気に入った相手を像にして飾る癖があった。

 その中でも気に入った像を自室に飾るのだ。

 男で像になったのはウスが初めてだった。


「今日はもう帰ろう。一日中お前を愛でてやろう。・・・あぁ?!」


 興奮が治まらないローズネスはウスの氷像を持って帰って今すぐにでも愛でたくなっていた。

 持って帰る為、ウスの氷像に触ろうとしたが、その瞬間、炎がウスとローズネスの間に走って立ち塞がった。


「何のつもりだ?アリセシア。」


「ウスを返して貰います。彼は私の従者です。」


「お前の炎で俺の氷は溶けないぞ。それとも従者共々氷像として飾ってやろうか?」


 一触即発な雰囲気が流れる中密かにウスの氷像に小さなヒビが入っていた。

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