ペンドラゴン異世界書店 ~拾った印刷機で本を作ったら、教会やら王国軍やらに目をつけられたんですけど?~
玄納守
プロローグ
第1話 転移
「おい、大丈夫か!」
何かにぶつかった。
急に飛び出してきてブレーキが間に合わなかった。
だからこんな街灯もない廃村の道を夜に走るのは嫌だったんだ。
高速道路が事故渋滞したため、仕方がなくこの寂しい道で、次の街までショートカットするつもりだった。
この道は、最新のGPSにも載ってない道だ。
本来なら20年前に廃村になっている地域だからだ。
トラックを降りた男は、辺りを見渡した。
静けさが漂う。
心臓の鼓動だけが、やたらと自分の耳を打った。
轢いた相手が見当たらない。
いや。確かに、今、道を横切るリヤカーを轢いたはずだ。でなければ、先ほどの衝突音や、体に残る振動の辻褄が合わない。
そうだ、あれはリヤカーの荷台だ。轢く瞬間、驚いて目をつぶってしまったが……。その時、何かがものすごく光ったはずだ。
それとも見間違えか?
もう一度目を凝らしてみたが、何も見当たらない。アスファルトは補修されなくなってもう数十年も経っているのだろう。でこぼこで手入れされている様子もない。
振り返ってトラックのフロント部分を見たが、こちらにも傷がない。
……気のせいなのか?
不意にクラクションが鳴らされた。後続の車だ。同じようにショートカットしてきたトラックだった。
男は慌てて、運転席に戻り自分のトラックを路肩に寄せた。
後続のトラックはゆっくりと追い越していった。
何もなかった。そのライトに照らされた道には、何も見当たらない。
追い抜いた車が視界から消えるくらいで、男は自分のトラックのライトも点け直し、道に何もないことをもう一度確認した。
轢いた瞬間、コピー用紙のようなものがばら撒かれたようにも見えたが、気のせいだったのか。
ふと見ると『給食だより』と書かれた紙が、一枚だけフロントガラスにはりついていた。寸胴鍋を運ぶ子供たちのイラストとカレーの絵が並んでいる。
ああ、さっき見えた紙は、これだったのか? ならば、すぐそこの小学校から飛んできたのか? なんだ、これがフロントガラスに当たっただけか。なら、一安心だ。
そのどこか懐かしい給食だよりは、急に吹いた風によって、夜空の中に持ち去られてしまった。
結局、男は何も轢いていないと判断し、安心してトラックに戻ったが、ふと心に引っ掛かったことがあった。
……小学校は、随分昔に廃校になっている。
それどころか、ここは来年にはダムの底に沈む村だ。二十年以上昔に立てられた予算消化のために行われる日本の最後のダム計画。
村にはとっくに人もいない。
現に灯りはどこにもない。
街灯どころか民家の灯りすらない。
いつの給食だよりなんだ?
……。
季節外れの寒い風に震えながらエンジンをかけ直した。
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