14 悪役令嬢は、うっかり首席になる

 いよいよ定期考査の時期がやってきました。

 ゲームでは、ブーケの才能はすさまじく、考査では、ヴィヨン様を凌ぎ、ついに3年間首席の座を守り続けます。

 今回の考査の結果は、ヴィヨン様にとって初めての挫折であり、次回以降、首席を取るべく努力なさるのですが、牙城を崩すことなく敗れ続けます。

 それでも腐らないのがヴィヨン様の素晴らしいところで、勝てないのはブーケの努力の成果であり、より努力して勝とうとなさるのです。「僕が満点取ればいいだけのことだよ」と仰って。

 こういうところが、そんじょそこらの腑抜け王子とは違います。

 そして、最後の定期考査では、ブーケと2人で満点を叩き出し、ついに首席となるのです。

 厳密には、ブーケには勝てなかったわけですが、2人して満点では、差の付きようがありませんからね。

 そもそも、この聖芳学園の定期考査は、かつて満点が出たことがないという鬼畜仕様の……いえいえ、何を考えて問題作ってるんだ……じゃなくて、大変に難解な問題が混じっているという評判のものなのです。


 それを、初の満点を、2人揃って取る、というのがイベントの1つです。ゲーム的には、ハッピーエンドの条件の1つであり、2人で高め合っていかなければハッピーエンドに至れない、ということでもあるのですが。




 ちなみにブーケは、ガルーニ男爵に引き取られてからの3か月の教育だけで首席を取っています。それはもう、最低限のマナーを身に着けた以外は、勉強漬けの日々です。

 この辺り、ガルーニ男爵の思惑というのは、ゲームでは語られないのですが。身も蓋もないことを言えば、庶民育ちのブーケの能力を示すのには勉強しかないのですから、必然的にそうなるのですよね。

 なにしろ、貴族の令嬢が通う学園に、体育の授業などというものはありませんから、庶民上がりの体力的優位などというものは発揮する場所がありません。令嬢に求められる肉体的能力など、“跡継ぎを産む”以外ないのですから。




 そんなわけで、間もなく定期考査なのですが、わたくしはいつもどおり、高位貴族用のサロンでヴィヨン様とお茶しています。


 「アミィは考査に向けて勉強はしているかい?」


 「ええ、一応、ヴィヨン様の婚約者として恥ずかしくないくらいの成績は取りたいと思っておりますので」


 アメリケーヌの成績は、せいぜい4位止まりですけれど。

 ゲームにおけるアメリケーヌの評価は、決して悪くありません。なにしろ公爵家の令嬢で、王子ヴィヨン様の婚約者です。

 ブーケに対する嫌がらせにしても、衆目に触れるのはしばしば嫌味を言うことくらいで、ほかのことはラストまで発覚しません。

 4~6位という順位は、やや微妙ではありますが、それでもかなりの上位であることは疑いなく、羨望と尊敬の念で見られているのです。


 「謙遜するね。

  僕としては、アミィに勝つのが目標なんだけれどね」


 それこそご謙遜です。

 ヴィヨン様は2位になりますのに。それをここで言うわけには参りませんけれど。


 「私などでは、ヴィヨン様のライバルには役者が不足しておりましょう。

  ヴィヨン様が首席をお取りになるのではありませんか? せいぜい、まだ見ぬライバルが立ちはだかるかどうか、というところではないでしょうか」


 首席間違いなし! まで言ってしまうと、後でフォローが利かなくなるので、このくらいでしょう。


 「まだ見ぬライバル、ね。そんなのが出てきたら面白いだろうけれどね」


 出てくるんですよ、とびきりのダークホースが。


 「さすがはヴィヨン様です。

  私も、ヴィヨン様の婚約者として恥ずかしくない成績を取れるよう、頑張りますわね」


 「うん、楽しみにしているよ」


 これが、2人で穏やかに過ごせる最後のティータイム。

 考査が終われば、ヴィヨン様はブーケに興味を持って、私のことなど忘れてしまう。

 そして、ブーケと2人で自治会に入って、ティータイムの時間も取れなくなってしまうのだわ。

 私は、貴重な2人の時間を、大切に過ごしました。




 そして、考査が終わり、成績発表の日を迎えました。

 この学園では、成績上位10名の名前と点数が貼り出されます。答案の返却はその後一斉になるので、発表までは自分の成績がわからないのです。

 一応、答えは全て書き込みましたし、それなりの手応えもありました。

 ブーケやヴィヨン様には及ばないにしても、高順位につけられるだけの点数を取ることは間違いないでしょう。


 ヴィヨン様と2人並んで、成績が貼り出された廊下へと向かいます。

 発表場所には、それなりの人だかりができていて、ざわめいています。

 「まさか…」とか、「殿下よりも…」とかいった声が聞こえます。

 そうでしょう、その存在すら知られていなかった男爵令嬢が彗星のように現れたのですから、驚かない方がどうかしています。

 これからブーケは、妬みや嘲りの声に晒されることになるのです。アメリケーヌの嫌がらせにも。

 そして、ヴィヨン様は、ブーケに興味を持ち、自治会で一緒に仕事をしていくうちにブーケに惹かれていくことになる……。

 それを後押しするのが、これからの私の役目。

 辛いけれど、ヴィヨン様の幸せのためです。

 ブーケでなくては、ヴィヨン様を幸せにはできないのですから。


 何度目になるかわからない覚悟を決めて順位を見ようとした時、ヴィヨン様の弾んだ声が聞こえました。


 「やっぱり負けてしまったか。でも、まさか満点とはね」


 驚いて見てみると、首席は満点で私、次いでブーケ、ヴィヨン様は3位でした。


 いったいどうなっているの!?

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