従者の男
「ほら、こっち。ついてきて。」
足には自信があったが、アーシャの走りは自分の今までの「走る」という行動が馬鹿
に思えてくるほど素早かった。その細腕は想像だにしない力があり、早々にすっころ
んだ俺は路地裏を引きずり回されていた。アーシャは西部劇の拷問のような状態の俺
にかまうことなくぎゅんぎゅんとスピードを上げてゆき、あるところでピタッと静止
した。
「ふぎゃっ!!」
当然俺はそこで止まれるはずもなく、無様に土ぼこりをあげながら壁に激突した。
「いつつ…」
幸いなことに擦り傷もできていなかった。
壁にもたれながら恨みがましい視線をアーシャに送る。アーシャはこちらを見ること
なく、いままで自分たちが走ってきた道を睨んでいた。
「あー!もう!しつこい‼」
アーシャは道の先の誰かに怒る。
そちらに目を向けるが裏路地の道は薄暗く、輪郭すらも見えなかった。
「しつこいとは失礼だな。いや、お前はいつも失礼だ。アーシャ」
男の声がした。足音がゆっくりと近づき、それに伴ってだんだんと男の顔が見えてき
た。厳格そうな顔の、甲冑を着込んだ大柄な男だった。あんな甲冑を着ていればガチ
ャガチャと歩くたびに音がなりそうなものだが、不思議なことに彼からは足音しか聞
えなかった。
「あんたこそなんでついてくるのよ!このストーカー‼」
男はアーシャにかまうことなくこちらへ向かってくる。
目の前までくると、男はじっとこちらの顔を見つめる。
「こいつが勇者か。アーシャ」
「…そうよ。勇者」
男はフンッと鼻を鳴らす。
「おい、勇者。俺はガーランドだ。よく覚えておけ。」
それだけ言うとガーランドは振り返り、
「アーシャ、お前はこいつをアジトにまで連れてこい」
と言って、元の道を歩いて行った。
ガーランドがいなくなった後、気まずい時間が流れる。
「あー、えっと…あいつは?」
アーシャに聞くと、彼女はうなだれる。
「…あいつはガーランド。…………あんたの…従者。」
…ん?
「…アジト、いこっか。」
結末(ケツ)から始まる俺の大カツヤク ねこらごん @nekoragon
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