1:勇者
歓声を上げる民衆の中で、俺は一人呆然としていた。
女神は魔王を倒せと言っていたが、どうやら魔王はあの男にもう討伐されているらしい。
しかも、あの角はなんだ。 なぜみんなあれを気にも留めないんだ?
俺は周りをゆっくりと見渡してみた。
さっきまで気が付かなかったが、民衆には、あの男と同様に角や、鋭くとがった耳、
尻尾など、人間にはあるべきでない構造が存在していた。
「…魔族?」
後ろから声が聞こえた。
「魔族?」「魔族じゃない?」「そんな訳ないだろ…魔族はもう勇者様が滅ぼしたって…」「でもあれは…」
民衆の視線が段々とこちらを向いていくのと同時に、背筋に冷や汗が流れる。
「…」
蛇に睨まれた蛙とはこの事か。完全にアウェーなこの状況から抜け出す行動を考える
が、思考がぐるぐると頭の中で堂々巡りするだけで、何も話すことが出来ない。
その時だった。
「勇者様‼」
誰かが叫んだ。
民衆の視線が一気に移動する。
あの男へ向けて。
男は手から何かを出していた。その何かは手の中で揺らめき、光り、文字のようなものが浮かんでは消えている。
魔法
その言葉がふさわしいと感じた。
男が口を開く。
「
次の瞬間、男の手の中のものが大きく光りバチバチとした、雷のようなものがこちらへ向かってくるのが見えた。
――死ぬ
そう思った時だった。
「見つけた」
声が聞こえた気がした。
物凄い力で体が引っ張られる。
あの男の放った魔法は先ほどまで自分が立っていた所に着弾し、民衆もろとも大きな
爆発を起こした。
――阿鼻叫喚
その言葉通り、そこから離れようと民衆は逃げまどい、叫び、泣き、先ほどまでのお
祝いムードはさっぱり消え去って、民衆の波が無秩序に氾濫を起こしてゆく。
「こっち」
恐怖で
気付けば、民衆の波を抜け、小さな裏路地に入っていた。
「やっと見つけたよ」
嬉しそうな声
声の主の方を向くと、ローブを被っている女がいた。
薄暗い裏路地と、彼女の背後の大通りの光のコントラストによりフードの中の顔はよく見えない。
「ねえ、勇者様。」
女はフードを外し、両足で
女が口を開く。
「初めまして、勇者様。」
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