小噺 其の十六 夜明けのしあわせ
朝を告げる鳥もまだ鳴かぬ明けの時。
ガヴィは不意に目を覚ました。
昨晩は馴染みの魔法使いが泊まりに来て、遅くまでしこたま呑んだ。
イルは呑まないながらも頑張って付き合ったのだが、
最近はとんと御無沙汰だが、遠征任務の多かったガヴィは明け方に出立する事が多く、朝日が昇るか昇らないか間際の時間にふと目が開くのは最早職業病のようなものであった。
目が覚めても任務がない時は二度寝を決め込むのだが、最近は二度寝をする事は余りなくなったように思う。
ガヴィはその理由である、隣りに眠る少女を見る。
最近酒を呑み交わす機会が増えた歳の離れた友人のようでもあり、兄や父のようにも感じるポルトの街の魔法使いはとかく少女との関係の進展を尋ねてくる。
大半は酒の
残念ながら周りが想像するような艶めいた事態には未だなっていない。
とてもじゃないがどう見ても兄妹関係に毛が生えたような今の関係では流石のガヴィも安易に手を出すのは気が引ける。
少女は自分がいいと言うし、自分よりかなり幼いとは言え彼女の恋心を疑いはしない。
自分だって同居にまで持ち込んでいるのだから彼女をそういった意味で好きな気持ちに嘘偽りはない。
ただ、
今まで己が大切にしたかったものは全部手からこぼれ落ちた。
守りたいと切に願い、手のひらからこぼれ落ちないように十二分に努力もした。
けれどさほど多くはないそれはみんなガヴィの手のひらから消えてしまったのだ。
だから、この朝焼けの瞳の少女が自らガヴィの腕に飛び込んできて、キラキラと宝石のような瞳で、自分を好きでなくともガヴィの事が好きだなんて言うものだから、初めて手に入れたその輝く石を懐に入れてしまえばもう手放せるはずなどなかった。
『お嬢見ててドキドキしないわけ?』
脳裏に魔法使いの言葉が響く。
「……」
無言で少女の頬にかかった黒髪をそっと指先で除けながら、ガヴィはあの時は曖昧にしか答えなかった問いの答えを想った。
朝日と共に黄金に輝く朝焼け色の瞳が
開いたばかりのその瞳が自分を捕らえて名を紡ぐ
その瞬間に速度を増す己の鼓動で、今自分が生きていると実感する。
「……ドキドキしない事なんかねぇよ」
いっそ泣きたくなるようなその
けれど、確かにそれが幸福という名の時間なのだと言う事は解っていた。
あの瞬間が、一日でも長く続けばいい。
そして願わくば、イルも同じ様に感じていてくれたら尚しあわせだ。
隣にはまだ夢の中の眠り姫が、安心しきった顔で眠っている。
ガヴィの待っている瞬間はまだもう少しあと。
今はまだ少々あどけない顔が、色を残してはにかみながらその瞳にガヴィを映して朝を迎えるのはいつの日か。
そんな幸福を想像しながら、イルが目覚めるのを待つのも悪くない。
ガヴィは眠っているイルに気づかれぬよう、そっと目蓋に唇を落とした。
2023.5.27 了
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❖あとがき❖
このお話も実は初期の頃に書いた話です。時系列的には小噺十四の直後。
苦労してる人って情が深くて気が長い気がします。
ガヴィはジェットコースターの様な恋はわからんけれど、きっと彼は今、毎朝人知れず幸せを噛み締めているに違いないと思う。
大切なものは宝箱に入れて大事に大事に愛でるタイプかな。自分の目の届く範囲では好きに生きて欲しいけれど目の届かないところに行かれるのは嫌そう。一見、寛容に見えるプチ束縛タイプ。
そしてたまに束縛の度が過ぎてイルと喧嘩しそうです(笑)
これを考えたのが多分まだ本編2も書いてないような時だったので、書いたのはだいぶ前ですが娘に見せたのは最近です(^_^;)内容もちょっと大人??
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