嫉妬は見苦しいですよ

私には関係のない話よね。それよりも、そろそろ来るはずよね。


「ヴィクトリア!!」


ほら来た。あんなに怖い顔をしちゃって。ダメだわ、笑いがこみ上げてくる。


やって来たのは、もちろんディーノ様だ。顔を真っ赤にしてこちらに走ってやってきた姿は、まるでユデダコね。


スルスルと木から降り、ディーノ様を迎える。


「あら、ディーノ様、そんなユデダコの様に真っ赤な顔をされて、どうしたのですか?」


コテンと首を傾げた。


「どうしたもこうしたもないよ!それよりもヴィクトリア、またあんな演技をして先生を騙して、その上、僕が付けていた護衛に何を投げたのだい?皆くしゃみや鼻水が止まらず、困っていたじゃないか。その上、こんな場所に来ているだなんて!」


「あら、あの程度の演技に騙される先生が悪いのですわ。それに護衛の件は、ディーノ様が規則を破って連れて来ていたのですから、ご自分が悪いのでしょう?それから、くしゃみや鼻水は、そのうち落ち着きますわ。体に害がある訳ではございませんので、ご安心を」


「君って子は!僕が怒られている姿を、モニター越しで見て笑っていたのだろう?君の影が、僕の様子を録画していたことを、僕が気が付かないとでも思ったかい?本当に君は!」


「あら、あの影は王妃様が付けて下さった方たちですわ。ディーノ様も不満でしたら、あの場で影の存在を、先生に報告すればよかったのでは?」


「そんな事をしたら、僕の可愛いヴィクトリアが怒られる…と言いたいところだが、君ならうまく回避するのだろうね…」


なぜかディーノ様が、遠い目をしている。今のうちにさっさと王宮に戻ろう。そう思い、歩き出したのだが…


「話はまだ終わっていないよ。何を勝手に帰ろうとしているのだい?本当に君って子は。とにかく、王宮に戻ったら、ゆっくり話をしないといけないね」


「何を話すのですか?あなたは今日、5枚の反省文を書くというお仕事があるでしょう?どうか私に構わず、しっかり反省してください」


「それならもう書き終わって、先生に提出してきたよ。さあ、帰るよ。ヴィクトリア…て、どうして木の上に、ディカルド殿下がいるのだい?もしかして、2人きりで今までいたのかい?」


やっとディカルド殿下の存在に気が付いたディーノ様。いくら何でも、鈍すぎるでしょう…ディーノ様の言葉で、スルスルと木から降りてくるディカルド殿下。


「こんにちは、ディーノ殿下。いつもクールで冷静な君が、ヴィクトリア嬢の前では取り乱すのだね。確かにヴィクトリア嬢は、とても魅力的な令嬢だから、君が虜になるのもわかるよ」


「それはどう言う意味だい?言っておくけれど、彼女はもう僕の婚約者だ。それにしても、いつも表情一つ変えない君が、笑顔になっているのだなんて…ヴィクトリア、ディカルド殿下に何をしたのだい?」


クルリと私の方を向き直すと、顔を真っ赤にして迫って来たのだ。


「ディーノ様、ユデダコの様な顔で迫るのはお止めください。笑いがこみ上げてきます。別に私は何もしておりませんわ。なぜかディカルド殿下が勝手についてきて、勝手に話しかけて来ただけです」


「そんな訳がないだろう。氷の王子と言われているほど、いつも冷たい顔…失礼、クールに振舞っているディカルド殿下が、笑顔を向けているのだよ。きっとヴィクトリアが何かしたに違いない。ディカルド殿下、彼女は僕の婚約者です。二度と2人きりにならないで下さい!ほら、ヴィクトリア、帰るよ」


私の手を握ると、速足で歩き始めたディーノ様。ちらりとディカルド殿下の方をみると、なぜか笑顔で手を振っていた。あの人、一体何だったのかしら?



そのまま馬車に乗り込むと、なぜか膝に座らされ、後ろから強く抱きしめられた。


かと思ったら、今度は隣に座らされ、至近距離で私を見つめてくる。この人、何がしたいのかしら?


「ヴィクトリア、どうして君は、こうも令息たちを虜にしていくのだい?よりによって、ディカルド殿下を虜にしてしまうだなんて。いいかい、君は僕の婚約者なんだ。僕以外の男と2人きりになること自体、罪な事なんだよ。分かっているのかい?」


「別に2人きりになりたくてなった訳ではありませんわ。殿下が勝手に、私の居る場所にやって来たのです。その上、訳の分からない事をブツブツとおっしゃっていたから、適当に対応しただけですわ」


自分の顔が嫌いとか、こんな顔要らないとか、本当に理解不能だ。顔がなかったら、綺麗な景色も見られないし、美味しいものも食べられない。ただ…ディーノ様の小言を聞かなくていいから、そこはメリットかもしれない。


「君にとっては適当でも、他の人にとっては心に響く事も多いんだ。とにかく、今回の件はさすがに見逃せない。罰として今日から3日間、スイートポテトは無しだ。それから、クリーにも乗せないからね」


「何ですって!さすがにそれは酷すぎますわ。3日間も私からスイートポテトとクリーを取り上げるだなんて。ふざけないで下さい!」


私はいつも通り動いただけだ。それなのに!


「何が酷すぎるものか!甘すぎるくらいだ。いいかい?君は王太子でもある僕の婚約者なんだよ。それなのに、他の男と2人きりでいるだなんて!」


「己の醜い嫉妬心から、私に八つ当たりしないで下さい。嫉妬心程、見苦しいものはございませんわ!」


ディーノ様の嫉妬のせいで、スイートポテトとクリーを取り上げられたら、たまったものではない。ここはしっかり抗議をしないと!

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