この男、盛大な勘違いをしている様です

「あなた達、今そっちはどの様な状況?」


“ヴィクトリア様ですか?はい、今無事入学式が終わり、殿下がすぐにでもヴィクトリア様の元に向かおうとしたのですが、先生に呼び止められ、そのまま職員室に向かった模様です”


「そう、すぐにディーノ様の様子を映像で送ってくれるかしら?」


“かしこまりました”


急いで小型モニターのスイッチをオンにする。すると、ちょうどディーノ様が、先生と向かい合わせに座っている姿が映し出された。近くにはディーノ様の護衛たちの姿もある。


“ディーノ殿下、この方たちは、あなたがヴィクトリア嬢に付けた護衛で間違いありませんね”


“はい、そうです。どうしてこの者たちがここに?”


申し訳なさそうに俯く護衛たち。ただ、くしゃみを連発している。目も辛そうだ。あの煙幕には、刺激の強い薬草を仕込んでおいたため、目と鼻が辛いのだろう。


“ヴィクトリア嬢が、彼らの居場所と正体を教えてくれたのです。ディーノ殿下、貴族学院には、護衛を連れてくることは禁止されているはずです。いくらヴィクトリア嬢が心配だからと言って、殿下自ら規則を破るのは、よくありませんよ!”


“はい…申し訳ございませんでした…”


“そもそも、この学院にはちゃんとした護衛もおります。もう二度と、護衛を連れてくることはない様にお願いします。それから、罰として反省文を5枚、明日までに書いて来てください。いいですか?入学早々、この様な問題を起こすだなんて、前代未聞ですよ。このことは、陛下と王妃殿下にも報告させていただきます。とにかく、猛省してください”


“はい、本当に申し訳ございませんでした”


ディーノ様が小さくなって、何度も謝っている。これは見ものね。


「見て、ディカルド殿下、ディーノ様が先生に怒られて、あんなに小さくなっているわよ。それに反省文5枚ですって。これは愉快だわ。この映像、永久保存版にしないと」


こんなに面白い映像が撮れるだなんて、最高ね。嬉しくてつい、隣にいたディカルド殿下の肩をバシバシ叩きながら、笑ってしまう。


「ヴィクトリア嬢は…その…ディーノ殿下の事が嫌いなのかい?そういえば君、無理やりディーノ殿下の婚約者にされたのだよね。可哀そうに」


ん?この男は何を言っているのだろう。


「あなた、何を言っているの?私はディーノ様の事を、嫌ってなんかいなわよ」


むしろ彼の事を愛しているくらいだ。だからこそ、こうやって振り回して楽しんでいるのだ。


「無理してそんな事を言わなくてもいいのだよ。そうだよね、君も一応公爵令嬢だ。公爵家の為に、色々と我慢している事もあるのだろう。だからこうやって、陰で殿下を虐めているのだね」


何やら訳の分からない事を呟きながら、頷いているディカルド殿下。


「何か誤解をしている様ですので、はっきりと申し上げますわ。私は公爵家の為に我慢なんてしません。そもそも私の父は、私を殿下に売ったのですよ!実の娘を売るだなんて、本当にお父様ったら。そんなお父様の為に、誰が我慢何てするものですか」


あの人のせいで、私はずっと王宮で生活させられているのだ。お父様め、思い出したら腹が立ってきたわ。今度お父様に会ったら、もう一度文句を言ってやらないと!


「そうか、君は実の父上に売られたのだね。可哀そうに…大丈夫だよ、僕が君を助け出してあげるから」


ん?助ける?


「さっきから、訳の分からない事ばかりおっしゃって。私は誰かに助けてもらわなくても結構ですわ。自分で何とかできますから。そう、誰の助けも必要ないのよ。それなのにマーリン様との対決の時、ディーノ様がしゃしゃり出て来たせいで!」


あの時の事を思い出し、再び怒りがこみ上げて来た。ただ…あの時の大蛇を思い出すと、恐怖で体が震えた。あの大蛇さえいなければ!


「ヴィクトリア嬢、震えているよ。可哀そうに、きっと辛い事が今までに何度もあったのだね。でも、もう大丈夫だからね」


何を思ったのか、ディカルド殿下が抱き着いて来たのだ。


「ちょっと、何を抱き着いているのですか?離れて下さい」


ディカルド殿下を引きはがす。本当にこの男は、一体何を考えているのかしら?全く理解できないわ。さっきまで顔色一つ変えずに、真顔で話してきていたのに。急にニコニコ笑いだして。


そういえばこの状況、昔もあったような…

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