第30話 これは宣戦布告ですね

「お嬢様、一体殿下に何を飲ませたのですか?まさか毒ではないですよね」


部屋に戻るなり、血相を変えて私に話しかけてきたのはクロハだ。


「クロハ、いくら何でも失礼よ!あれは本当によく効く薬よ。ただ、物凄く苦くてまずいから、私は絶対に飲みたくはないけれどね。それよりも見た?薬を飲んだ時の殿下の顔。なんだかすっきりしたわ」


「お嬢様、なんて事をおっしゃるのですか!まさか殿下に苦い薬を飲ませるために、お見舞いに行ったのですか?」


「ええ、そうよ。何か問題でも?」


「あなたって人は…万が一殿下の体調が悪化したら…もう侯爵家もお終いですわ」


「悪化なんてしないわよ。本当によく効く薬なのだから。クロハは心配性ね。それよりも今日の晩御飯はなにかしら?久しぶりに薬草を取りに行ったから疲れたわ。領地にはたくさん生えているのに、王都にはあまりないのね。でも、丘の奥に生えていて助かったわ」


もし生えていなかったらどうしようと思ったけれど、あってよかったわ。私は元々体が弱く、早く元気になりたくて色々と薬草の研究をしていたのだ。あの薬草は特効薬と言っても過言ではない程、効き目がいいのだが、何分味がね…


それにしても、まだ夕食まで時間があるのね。既にお腹ペコペコだわ。


「クロハ、お腹が空いちゃったからお茶とお菓子を準備して頂戴」


夕食まで持ちそうにない、お菓子でも食べてお腹を満たそう。そう思ったのだが


「最近お嬢様はお菓子を少し食べ過ぎでございます。どうかご夕食まで我慢してくださいませ」


そう言われてしまったのだ。


「どうしてよ、お菓子くらいいいじゃない!」


「いけません!殿下がお元気になられたら、またお嬢様を甘やかしてお菓子を沢山提供されるのです。今日くらいは我慢して頂きますから」


クロハめ。私にお菓子を提供しないだなんて。こうなったら泣き落としで…


「泣き落としは効きませんから。それではまた、ご夕食の時間になりましたら参ります。どうかごゆっくりお過ごしくださいませ」


そう言ってクロハが笑顔で去っていく。もう、クロハったら。仕方がない、夕食まで本でも読んで待つか…



ただ、なぜかものすごくお腹が空いていた為、本どころではない。仕方がないので、ベッドに横になって時間が過ぎるのを待つ事にした。


どれくらい待っただろう…このまま私は餓死するのでは…そう思っていたころ、やっとクロハがやって来たのだ。


「お嬢様、ご夕食のお時間です。どうぞ食堂へ」


「やっと夕食の時間なのね。待ちわびたわよ。早速行きましょう」


今日は面倒な男がいないから、ゆっくり食事が出来るわ。意気揚々と食堂へと向かう。カルティア様がいなくなってから、比較的穏やかな夕食だ。王妃様や陛下、アマリリス様と楽しく会話をしながら、食事を頂く。


マーリン様はあまりお話されるタイプではない様で、いつもニコニコ顔で話を聞いているのだ。


このスープを飲んだら次はメインディッシュね。さっさとスープを…


ん?これは…


すっとスプーンを置いた。


「どうしたの?ヴィクトリアちゃん、急にスプーンを置いて」


王妃様が不思議そうな顔で訪ねてきたの。


「いえ、何でもありませんわ」


笑顔で対応する。その後メインのステーキにデザートまでしっかり頂き、部屋へと戻ってきた。


「お嬢様、どうしてスープを残されたのですか?お嬢様は好き嫌いがなく食べ物を残す事なんてほとんどありませんのに…」


不思議そうな顔でクロハが聞いてきた。すっとクロハの方を見る。そして、紙にある事を書きクロハに見せたのだ。その瞬間、驚き口をふさぐクロハだったが、すぐに正気に戻ると


「今日はお疲れだったのですね。失礼いたしました。すぐに湯あみをいたしましょう」


いつも通り湯あみを手伝ってくれたクロハ、私は早めにベッドに横になる事にした。そんな私を見て、クロハは部屋から出て行った。


あのスープ、間違いなく毒が入っていた。かすかにテリオの葉の匂いがしたのだ。テリオの葉は体内に取り込むと、時間をかけ少しずつ体を蝕んでいく。そして約24時間後にひっそりと息を引き取るのだ。


また体内に残らないため、暗殺とバレにくい。猛毒と違い匂いもほとんどなく、相手にバレることなく確実に始末できるのだ。まさか私にこんな毒を使ってくるだなんて。


きっと誰にもバレることなく、ひっそりと私を闇に葬りたかったのだろう。でも、舐めてもらっては困るわ。そもそも私を葬ろうだなんて、一億万年早いのよ。これは私に対する宣戦布告ね!


いいわ、この勝負、受けてたってやるのだから!

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