第31話 この男…やるわね
とにかくまずは頭を整理しよう。私のスープに毒が入っていたという事は、きっと何者かが私を葬りたいと考えているのだろう。
単純に考えるとマーリン様が一番怪しいわ。でも、アマリリス様の線も捨てきれない。もしかしたら、王妃様かもしれないわね。それとも、カルティア様?いいや、さすがにカルティア様はないだろう。
彼女が今更私を暗殺するメリットがない。となると、マーリン様とアマリリス様、王妃様くらいか…
でも、アマリリス様も今更私を暗殺したところで、メリットがなさそうよね。いや、でも実はマーリン様と裏で繋がっていて、マーリン様に取り入るために私を暗殺しようとしたのかもしれないわ。
王妃様だって、大切な息子を振りまわす私を、疎ましく思っている可能性もある。となると、陛下も候補に入るのか。そもそも、そんなに簡単に料理に毒なんて入れられるのかしら?となると、王宮にもきっと、私の敵がいると言う事ね。
もしかしたら私に付けてくれているメイドの中にも、敵が潜んでいるかもしれない。ただ、私の部屋で怪しい行動をしている人物は、居なかったはず。
私は自分の部屋に小型の撮影機をセットしており、私がいないときに誰かが怪しい動きをしていないかチェックしているのだ。とにかく今まで以上に、警戒をしないと…
その時だった。
「ヴィクトリア、もう寝たのかい?」
この声は…
「殿下、もう熱は下がったのですか?」
殿下が私の部屋を訪ねて来たのだ。一体どうしたのだろう。
「ああ、もうすっかり良くなったよ。君の苦いお薬を飲んだお陰だ。あの薬、本当によく効くね。お礼に僕も特製のジュースを作って来たのだよ。ぜひ飲んでもらおうと思ってね」
嬉しそうに私の元にやって来た殿下。手には何やら怪しい色のジュースを持っている。この男、きっと私が苦い薬を飲ませた事を根に持って、仕返しに来たのだわ。
「殿下、私は元気ですので、その様な物は…」
どこからどう見てもマズそうだ。そんなマズそうなものは、絶対に飲みたくはない。
「酷いな、僕が愛情たっぷり入れて作ったのに。見た目は悪いけれど、味はバッチリのはずだよ。ほら、飲んで。飲んでくれるまで僕は、ここを動かないよ。でも飲まないのなら、ここでヴィクトリアを抱きしめながら寝ようかな。それはそれでアリだよね」
何を思ったのかこの男、私のベッドに入り込もうとしているではないか。そうはさせるものですか!
「殿下、令嬢のベッドに入り込むだなんて、ふしだらですわよ。このジュースを頂けばよろしいのよね。分かりましたわ」
このマズそうなジュースを飲んだ事を理由に、明日は1日体調を崩したふりをしてゆっくり過ごしてやるわ。そんな思いでジュースを飲む。あら?これは…
「とても美味しいジュースですわ…これは…」
「色々なフルーツを混ぜ合わせたのだよ。喜んでもらえてよかった。それじゃあ、また明日。そうそう、医者たちが、君が僕に飲ませた薬草が何なのか知りたいと騒いでいたよ。何の薬草を使ったのか、明日僕にも教えてね。それじゃあ、お休み」
殿下が笑顔で去っていく。
「どうしてわかったのかしら…」
ポツリと呟いた。間違いない、あのジュースには、テリオを解毒する作用のある薬草が入っていた。きっと私の出されたスープにテリオの毒が入っていた事に気が付いていたのだわ。でも、一体どうやって知ったのかしら?
あの男はあの場所にいなかった。もしかして殿下が毒を?いいえ、それならどうしてこっそりと私に解毒剤を飲ませたのだろう。私を毒殺したいのなら、解毒剤を飲ませる訳がない。
やっぱり殿下はシロよね。私は部屋に戻って来てから、毒について何も話していない。殿下が私の部屋を盗聴していて情報を仕入れる事は不可能。
となると…
王妃様?
王妃様はいつも私の行動を見ている。私がスプーンを置いた事にもいち早く気が付いた。もしかしたら王妃様が殿下に知らせたのかしら?という事は、王妃様もシロ?
そもそも王妃様ともあろうお方が、侯爵令嬢でもある私を暗殺する必要なんて微塵もない。第一私がお妃候補に選ばれたのも、王妃様が熱望したためと聞いた。
という事は、やはりマーリン様かアマリリス様が怪しいわ。一応王族が犯人という線も残しつつ、この2人を特に警戒していきましょう。
それよりも殿下め、どうして何でも知っているのかしら?私はスープを飲んでいないとはいえ、なんだか助けられた気がして非常に癪に障るわ。あの男、いつかギャフンと言わせてやるのだから。
なんだか急に眠くなってきた。テリオの解毒作用のある薬草は、副作用として強い眠気に襲われるものだったわ。
今日は疲れたしちょうどいい、明日に備えてさっさと寝よう…
※次回、ディーノ視点です。
よろしくお願いいたします。
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