第16話 ヴィクトリア嬢に振り向いてもらえる様に~ディーノ視点~

侯爵と話をした後、早速ヴィクトリア嬢の元へと向かった。午前中は王妃教育を受けている頃だ。王妃教育は非常に厳しく、ここで挫折する令嬢も少なくはないと聞く。もしヴィクトリア嬢が、あまりにも厳しい王妃教育に嫌気がさして、王宮を去りたいと言ったらどうしよう。ヴィクトリア嬢が心配だ。そんな思いでこっそりと彼女の元に向かうと…


あれ?ヴィクトリア嬢がいないぞ。まさかあまりにも厳しい王妃教育に、逃げ出してしまったのだろうか?そう思ったのだが…


「殿下、何をなさっているのですか?」


後ろから低い女性の声が聞こえた。振り向くとそこには、ヴィクトリア嬢の教育係の姿が。


「その…ヴィクトリア嬢が心配で様子を見に来ただけだ。それよりもヴィクトリア嬢はどうしたのだい?」


「ヴィクトリア様は優秀すぎて、既に王妃教育を終えられております。私も今まで沢山の令嬢を見て参りましたが、あそこまで優秀な令嬢は初めてですわ。私が言ったことを一度で完璧にこなすのですよ。はっきり言って同じ人間とは思えない程のパーフェクトレディですわ」


教育係が鼻息荒く迫って来た。どうやらヴィクトリア嬢は、あり得ない程優秀だと言う事はわかった。


既に王妃教育が終わっていると言う事は…きっとあそこにいるのだろう。


僕が向かった先は、昨日ヴィクトリア嬢と一緒に行った丘だ。彼女の事だ、昨日僕が言った事なんてすっかり忘れて、丘で好き勝手やっているのだろう。


そう思い丘に向かうと、やっぱりいた!木に登り景色を見ているヴィクトリア嬢の姿が。ただ、なぜか周りには、ぐったりと横たわっている護衛たちの姿が。彼らは一体何をしているのだろう。


そう思いつつ、ヴィクトリア嬢に声をかけた。僕もヴィクトリア嬢の傍に行きたくて、木に近づこうとしたのだが、面会時間ではないとわかると、スルスルと木を降りてきて、そのまま去って行ってしまった。


あれ?今僕、ヴィクトリア嬢に避けられた?


「君たち、今ヴィクトリア嬢は、僕を避けたのかい?」


近くにいた護衛たちに呟く。


「いえ…その…避けたと申しますか、何と申しますか…」


困った顔の護衛たち。どう答えていいのか分からない様だ。やっぱり今、僕はヴィクトリア嬢に避けられたんだ…


まさか避けられるだなんて…


「殿下、そんなに落ち込まないで下さい。ヴィクトリア様を見ていらっしゃいますと、なんと申しますか、自由をこよなく愛しているタイプの様です。きっと今は、殿下とお話ししたい気分ではなかったのでしょう。それにしても、いつも感情を表に出さない殿下が露骨に落ち込むだなんて、新鮮ですな」


そう言って僕の肩をポンポン叩いているのは、僕専属執事だ。


「私が調べたところによりますと、ヴィクトリア様は非常に賢く、他人の前では完璧な令嬢を演じ切っていらっしゃるようです。それなのに殿下には素のご自分をさらけ出していらっしゃると言う事は、きっと殿下には心を許していると言う事なのでしょう」


確かに執事の言う通りだ。ヴィクトリア嬢は自分の両親の前ですら、完璧な令嬢を演じていると聞く。という事は、僕には心を許していると言う事か。


そう思ったら、なんだか嬉しくなってつい頬が緩む。


「殿下は今までご自分の感情を抑え、何事も我慢なされてきたのです。将来の伴侶はぜひご自分で選んでください。ただ、相手にも心がありますので、まずはヴィクトリア嬢には殿下にご興味を持っていただく事から始められたら良いかと」


ヴィクトリア嬢に興味を持ってもらうか…


確かに将来を共にするのなら、ヴィクトリア嬢にも僕の事を好きになってもらいたい。その為にも、まずはヴィクトリア嬢には、もっともっと僕の事を好きになってもらわないと。


なんだかやる気が出て来たぞ。


再びヴィクトリア嬢の部屋へと足を運ぶ。


「ヴィクトリア嬢、少しいいかな?」


「殿下、どうされましたか?もう面会時間ですか?」


どうやらスイートポテトを頬張っていた様で、沢山のスイートポテトが机に並んでいた。どうやら彼女は、スイートポテトが大好きな様だ。そういえば昨日も、スイートポテトをリクエストしていたな。


「いいや、面会時間ではないのだが…ちょっとヴィクトリア嬢と話がしたくてね。君はお妃候補なのだから、面会時間以外にこうやって交流を持つのは当然の事だよ」


すっと彼女の隣に座る。改めてヴィクトリア嬢を見つめる。銀色のサラサラの髪、大きくてクリクリした青い瞳、スッと通った鼻、やっぱりこの子、可愛いな。


「殿下、私の顔に何かついていますか?」


じっと見つめていたせいか、ヴィクトリア嬢が不思議そうに訪ねて来た。


「いいや、何でもないよ。それよりも、もう今日は丘に行かないのかい?」


さっきは急に帰ってしまったから、なんだか気になったのだ。


「ええ、まだ侯爵家から馬が来て居なくて。本当は乗馬をしたいのですが…」


「乗馬がしたいのかい?それなら、王宮の馬に乗ればいい。どの馬もきちんと躾されているから、きっと乗りやすいだろうし」


彼女が望む事なら、何でも叶えてあげたい。そう思ったのだ。


「それは本当ですか?嬉しいです。それでは、早速参りましょう。王宮にはどんな馬がいるのかしら。楽しみだわ」


ぱぁぁっと笑顔になったと思ったら、子供の様に急にはしゃぎ出したヴィクトリア嬢。さらに僕の手を握り、早く行こうと催促している。そんなヴィクトリア嬢の姿に、つい笑みがこぼれる。


本当にこの子、とても可愛いな。僕はこれからもずっと彼女のこの顔を近くで見ていたい。そう強く思った。


その後僕は、ヴィクトリア嬢と一緒に乗馬を楽しんだ。嬉しそうに馬を乗りこなすヴィクトリア嬢を見ていたら、僕も嬉しくてたまらない。もっとヴィクトリア嬢の事が知りたい、もっと彼女と一緒にいたい。


そんな気持ちが大きくなっていく。この幸せな時間が永遠に続けばいいのに。彼女の嬉しそうな顔を見つめながら、僕は強くそう願ったのだった。




※次回、ヴィクトリアの父、シーディス侯爵視点です。

よろしくお願いします。

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