第15話 自分の気持ちに正直に生きてみたい~ディーノ視点~

僕は今まで本当に何を見て来ていたのだろう。父上と母上の本心も知らずに、立派な王太子になる事ばかりにこだわっていて…


ただ、そんな両親の気持ちに気づかせてくれたのもきっと、ヴィクトリア嬢なのだろう。彼女は本当にすごい、僕の心にスッと入り込んでくるのだから。


両親との話が終わり、自室へと戻ってきた。なぜだろう、両親と話をしてから、心がまた軽くなった。


まさか父上が母上の事が好きで、猛アプローチしていただなんて意外だったな。僕はてっきり、政略結婚したものとばかり思っていた。確かによく考えてみれば、今でも父上と母上は仲良しだ。全く興味がなかったから気が付かなかった。


僕は今まで、本当に何も見えていなかったのだな。これからは色々なものにも、目を向けていこう。



翌日、ヴィクトリアの父親、シーディス侯爵に呼び出されたのだ。


「殿下、昨日はヴィクトリアが失礼な態度を取ってしまい、申し訳ございませんでした。その上、領地で採れたサツマイモを使ったスイートポテトを催促するだなんて…やはりヴィクトリアには、お妃候補には向いていなかったのでしょう。これ以上侯爵家の恥をさらす訳にはいきません。どうか辞退をさせて下さい」


深々と頭を下げるシーディス侯爵。


「侯爵、どうか頭を上げて下さい。それから、どうかヴィクトリア嬢の辞退は考え直していただきたい。僕は今まで、感情がない人形の様な人間でした。立派な王太子になるため、己の心を偽り、心を殺していたのです。ですが昨日、ヴィクトリア嬢に会って、人間の心を取り戻したのです。自分でもびっくりする程、感情が溢れ出る様になったのです。失礼を承知で申し上げますが、ヴィクトリア嬢は魔法か何かが使えるのでしょうか?」


真剣な表情で侯爵に問いかける。キョトンとした表情をしていた侯爵だったが、すぐに正気を取り戻した様で。


「ヴィクトリアは魔法使いではございません。ただ、領地で育ったせいか自由奔放と申しますか…令嬢らしくないと申しますか…いや、マナーなどは完璧にこなすから、ある意味要領だけはいい方か。頭も悪くないし…」


どうやら侯爵も混乱している様だ。なるほど、実の父親でもある侯爵ですら、扱いきれない令嬢という事か。


「侯爵、僕はヴィクトリア嬢に今、猛烈に興味があるのです。出来れば彼女を僕の伴侶にと考えているくらいです。ですからどうか、お妃候補を辞退するなんてことは言わないで下さい。お妃候補辞退は、貴族の権利なのは分かっています。ですが僕は、どうしてもヴィクトリア嬢に傍にいて欲しいのです。お願いします」


まさか僕が、こんな風に貴族に我が儘を言うだなんて、昨日までは考えられなかった。でも僕は、何が何でもヴィクトリア嬢を失いたくはない。自分でもびっくりする程、すらすらと言葉が出てくるのだ。


「殿下、頭をお上げください。分かりました、殿下がそうおっしゃってくださるのでしたら、お妃候補辞退はご遠慮させていただきます。ですがその…あなた様の婚約者は、既にマーリン嬢に決まっていると…」


「それは世間が言っているだけの噂ですよ。僕はもちろん、両親もヴィクトリア嬢を僕の伴侶にと考えているのです。調べたところ、彼女は圧倒的知識で、お妃候補の試験を満点で突破したそうではありませんか。さらにマナー試験も満点。非の打ち所がない令嬢と聞いています。きっと素晴らしい王妃になってくれると、僕も両親も信じております」


「そんな…まさかヴィクトリアの事を、殿下がそんな風にお考えだなんて…あのヴィクトリアが王妃だなんて…これは夢なのだろうか。まさか我がシーディス侯爵家から王妃が出るかもしれないだなんて。たとえ王妃になれなかったとしても、こんな風にヴィクトリアを評価して頂けるだなんて、こんな名誉なことはない。殿下、ありがとうございます。どうかヴィクトリアの事を、よろしくお願いいたします」


僕の手を握り、何度も何度も頭を下げるシーディス侯爵。こんなにも喜んでもらえるだなんて。正直僕が我が儘な人間だと軽蔑されたらと思っていたが、意外と受け入れられるものなのだな…

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