第10話 王太子殿下は中々いい人の様です

「お嬢様、あなた様は全く!この後に及んでスイートポテトを催促するだなんて。その上お妃候補者の方たちに暴言を吐いただけでなく、王族の皆様の前であのような演技をするだなんて…私、心臓が止まるかと思いましたわ」


一部始終見ていたクロハが飛んできた。


「あら、先に喧嘩を売って来たのはあっちよ。私はただ、対抗しただけだわ。でも、あのような幼稚な方たちと同じ土俵に立ってしまうだなんて…私もまだまだね。これからはもっと、本人たちにバレない様に上手くやるわ」


「お嬢様、どうかあまりおかしなことをしないで下さい。私の心臓が持ちません。それにしても殿下、お優しい方ですわね。それにお嬢様に興味がある様ですし…」


「あなたは何を言っているの?あの人、無駄に律儀なだけよ。それにしても、王太子というのも窮屈そうね。私なら頼まれても御免だわ。それよりも早く、ドレスを脱がせて頂戴。今日はさすがに疲れたわ」


「ですがお嬢様、殿下のお話しですと、今から食事が運ばれてくるとの事です。どうかもう少し、ドレスでいて下さいませ」


「どうしてよ。ここは私の部屋なのだから、少しくらい楽をしてもいいじゃない。今日は私、本当に色々と頑張ったのよ。それなのに…」


ポロポロと涙を流し、訴えてみたが…


「お嬢様の涙は見飽きました。とにかく、もう少しドレスでいて下さい」


クロハめ、最近私に厳しいのよね。


いっその事、自分で脱いでしまおうかしら?そんな事を考えているうちに、豪華な食事が運ばれてきた。せっかくなので、残さずぺろりと頂いた。ただ…


デザートがないわ。どうしてデザートがないのかしら?私は甘いものが大好きなのに。


「クロハ、デザートがないわよ。どうしたのかしら?」


「お嬢様が図々しくスイートポテトが食べたいだなんておっしゃったので、罰としてデザートは無しという判断になったのではないですか?」


「何よそれ、酷いじゃない。あの王太子め!」


優しそうな顔をして、やる事がえげつない!


「お嬢様、いつまでもフォークを持っていても、デザートは来ませんよ。さあ、着替えましょう」


諦め切れずにフォークを握っている私に、あきれ顔のクロハが話しかけて来た。その時だった。


「遅くなり申し訳ございません。こちら、ヴィクトリア様の領地で採れたサツマイモを使った、スイートポテトでございます。手配に手間取ってしまい、提供が遅くなり申し訳ございませんでした」


何と!私の為に、わざわざ家の領地のサツマイモを手配してくれていただなんて。なんて優しい料理長なのかしら?


「私の為にわざわざありがとうございます。そうですわ、料理長に直接お礼を…」


「いえ…手配を指示したのは王太子殿下でございます。お礼なら殿下にお願いいたします。それでは失礼いたします」


一礼して出ていく使用人たち。


早速スイートポテトを頂く。そうよ、この味。やっぱりスイートポテトは家で採れたサツマイモが一番おいしいわ。


「殿下がわざわざお嬢様の為に領地のサツマイモを手配してくださるだなんて、きっとお嬢様の事を…」


「律儀な人だとは思っていたけれど、ここまで律儀だなんて。それにしてもあの人、結構いい人ね。最初は人形みたいでつまらない男だと思っていたけれど」


「王太子殿下になんて事を言うのですか!本当にあなた様は。口は災いの元でございます。どうかお慎み下さい」


すかさずクロハに怒られてしまった。


確かに私の為にこんなにも美味しいスイートポテトを準備してくれたのだから、感謝しないとダメよね。


明日面会時に、お礼を言っておこう。


どうやらあの王太子殿下、悪い人ではなさそうだしね。



翌日、今日から王妃教育というものが始まった。1人づつ専属の先生が付き、徹底的に叩き込まれるらしい。通常この王妃教育に耐えられず、辞退者が出るほど厳しいと言われているらしいが…


「ヴィクトリア様…あなた様は完璧でございます。1度でここまで完璧に覚えられる人間がこの世に存在していただなんて…」


と、なぜか先生に絶賛された。


「先生の教え方がお上手なのですわ。本当に分かりやすくて、私は良き先生に恵まれました」


と、笑顔で答えれば


「なんて謙虚なのでしょう。素晴らしいですわ」


と、再び絶賛の嵐。この教育のどこが厳しいのか、さっぱり分からない。早々に教育も終わり、丘へと向かう。丁度クロハも席を外しているし、鬼の居ぬまになんとやらという奴ね。


生憎馬の手配が間に合っていないため、我が家から連れて来た護衛を相手に剣の打ち合いをする。


「お…お嬢様、強すぎます…」


ぐったり倒れ込む護衛たち。相変わらず情けないわね。こんなんじゃあ、護衛にならないじゃない。本当にもう…


せっかくなので、木に登り、王都の街を一望する。


「ここから見る王都は、本当に綺麗ね…」


王宮での生活には興味はないが、この景色だけはずっと見ていたい。そう思っていると…


「ヴィクトリア嬢、ここにいたのだね。黙って丘に来てはいけないと伝えたのに。それよりも、君の家の護衛たちが倒れているみたいだけれど…」


やって来たのは、王太子殿下だ。


「その人たちは少し休憩しているだけですので、気にしないで下さい。もう面会の時間ですか?」


「いいや、まだだけれど…その、君の王妃教育が一足先に終わったと聞いて…その…」


何やらもごもごと言っている。よくわからないが、面会時間ではないなら、彼に関わるべきではないだろう。せっかく1人の時間を楽しんでいたのに。


スルスルと木から降りると


「それでは殿下、私はお部屋に戻りますわ。昨日のスイートポテト、とても美味しかったですわ、ありがとうございました。それではまた後程」


カーテシーを決め、そのまま急ぎ足で丘を降りた。小腹も減ったし、部屋に戻ったらスイートポテトでも食べるとしましょう。




※次回、ディーノ視点です。

よろしくお願いいたします。

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