第11話 僕は王太子だから…~ディーノ視点~

“ディーノ殿下は本当に優秀ですね。きっと立派な国王陛下になられますよ”


“ディーノ殿下、あなた様は国王陛下と王妃殿下の血を受け継いだ唯一のお子でございます。きっとご立派にこの国を引っ張ってくださいますでしょう”


物心ついた時から、いつもいつも耳にタコが出来るくらい聞いてきた言葉。僕は生まれながらの王太子、いずれ国王になる僕は、ただただ家臣たちに言われるがまま、優秀な自分を演じなければいけない。


僕は国王でもある父上の血を受け継いだ唯一の子供だから。勉学や武術はもちろん、ありとあらゆる知識を子供の頃から叩き込んでいく。遊ぶ時間もなく、ただただ国王になるために生きている。


時には勉強が嫌になる事もある、たまにはゆっくり休みたい時もある。そんな思いから


「今日は少し体調が悪くて、お部屋でゆっくりしたいのだけれど…」


そう伝えてみた。でも…


「殿下、何をおっしゃっているのですか?あなた様は王太子殿下なのですよ。少し体調が悪いくらいで、休んでいてはいけません。こんな事では立派な国王にはなれません。王太子殿下とは、常に自分の事を後回しで考えるものです!」


そう言って怒られてしまった。


自分の事は後回しか…


僕は王太子だ。たとえどんなに辛くても、王太子としてしっかりしないといけない。そう教育係に何度も何度も言われた。


そう、僕は王太子なのだ。我が儘を言うなんてもってのほか。常に立派な人間で居続けなければいけないのだ。


楽しくもないお茶会には笑顔で参加し、家臣たちの意見に耳を傾ける。自分の感情を押し殺していくうちに、僕は次第に何も感じなくなっていった。


家臣たちに言われるがまま、ただただ生きている。まるで人形の様に…それでもそれが僕の生きる道だから。そう諦めている。


ただ、何も感じなくなってからは、なんだか楽だ。楽しいとか嬉しいという感情がない分、辛いとか悲しいとか嫌だと言う感情もないのだ。


本当に僕は、王太子という仮面をかぶった人形。でも、その姿を皆が望んでいる。それに僕自身、何も感じない分気楽でいい。そう思う様になった。


そんな僕も、13歳を迎えた。13歳になると、僕のお妃候補が選ばれ、熾烈な争いが繰り広げられる。と言っても、既に僕の婚約者には、フィドーズ公爵家のマーリン嬢にある程度決まっているらしい。


ただ、この国では半年間かけて正式にお妃を選ぶという決まりがあるため、数名の令嬢がお妃候補に選ばれたらしい。


正直僕は、誰が僕のお妃になろうとどうでもいい。何もかも、どうでもいいのだ。ただ無難に王妃をこなしてくれる令嬢なら誰でもいい。


そんな僕に母上は


「世間ではフィドーズ公爵家のマーリン嬢がディーノのお妃に内定しているだなんて噂もあるけれど、私はディーノに自分の意思で選んでもらいたいと考えているのよ。ディーノは今まで、自分の意思で何かを決めたことがないでしょう。だからね…」


「母上、僕はお妃には興味がありません。ですので、誰でもいいです。ただ、王太子として、誠心誠意お妃候補者たちに接するまでです。それでは失礼いたします」


母上は今更何を言っているのだろう。散々僕から、心を奪っていったくせに。ただ、だからと言って僕は母上や父上、家臣たちを恨んでなんていない。むしろ感情を失うきっかけを作ってくれた事、感謝している。もし自分の感情を持っていたら、きっと僕はこの重圧に押しつぶされていただろうから…


とにかくこれからも僕は、無の心で生きていこう。それが僕が唯一出来る、自分を守るための防衛策だから。まずは、お妃候補たちと過ごさないと。これも僕の大切な仕事だ。



とりあえず令嬢たちに失礼の無いよう、王太子としての務めを果たすため、彼女たちの情報を仕入れておく。お妃候補は4人。マーリン嬢以外は皆侯爵令嬢の様だ。カルティア嬢、アマリリス嬢、そしてヴィクトリア嬢か。


それぞれ彼女たちの情報を頭に叩き込んだ。そしてお妃候補たちが王宮へとやってくる日。いつもの様に笑顔を作り、彼女たちが来るのを待つ。


続々と集まって来る彼女たち。最後の令嬢がやって来たところで、何やら言い合いを始めた。令嬢とは元気な生き物だ…心が無の僕には、全く興味がない。


顔合わせが終わると、次は令嬢との1対1の面会だ。1人1人話をしていく。正直、何を話したか覚えていないが、きっと彼女たちも必死なのだろう。すり寄って必死に訴えてくる令嬢もいたが、正直何とも思わなかった。


「殿下、最後はヴィクトリア嬢です」


やっと最後の1人か。さすがに疲れたな。無難に笑顔を作って、適当に話しをして終わろう。そう思っていたのだが…

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