第8話 今度はディナーですって?

「お嬢様、おかえりなさいませ…て、どうして裸足なのですか?それにドレスも汚れておりますし。一体何があったのですか?」


クロハが心配そうに飛んできた。


「ああ、これね。ちょっと丘に行って、木登りをしたのよ。その時靴を脱いだの。丘にぬぎっぱなしで忘れてきてしまったわ」


しまった!急いでいて靴を履いてくるのを忘れてしまったわ。私としたことが…


「お嬢様、まさか殿下の前で、木登りをなされたのではないでしょうね?それも裸足でドレスのまま…」


「ええ、したわよ。でも、殿下のお妃候補は既に決まっているのだから、殿下に何と思われようが、いいじゃない。そうでしょう?」


「何がいいのですか?あろう事か、殿下の前で木登りだなんて。あなた様は侯爵家の名前を背負ってこの地に来ているのですよ。それなのに、一体何を考えているのですか?大体あなた様は、少し自由すぎるのです。あぁ…旦那様になんて報告すれば…」


怖い顔でクロハが怒っている。


「大丈夫よ、だって…お父様も木登りや乗馬、剣の練習をしてもいいとおっしゃっていたし…」


「それはお嬢様を説得するためにおっしゃっただけです。本心の訳がないでしょう!とにかく、もう二度とその様なおバカな真似はなさらないで下さいよ。いいですね、分かりましたね!」


「…努力するわ…」


「努力ではなく、必ず実行してください!本当にお嬢様は。罰として、しばらくお嬢様の大好きな領地特製スイートポテトはお預けです!」


「何ですって!私の大好物の、スイートポテトを私から取り上げるだなんて、酷すぎるわ。私は好きで王宮に来た訳ではないのよ。それなのに、スイートポテトまで取り上げるだなんて…」


いつものようにか弱い令嬢らしく、上目使いでポロポロと涙を流し、訴える。


「…そ…そんな顔をしてもダメですからね…とにかく、今日の事は猛省してください。いいですね」


そう言うと、プリプリと怒っているクロハ。


もう、クロハは怒りん坊なのだから。まあいいわ、丘の場所もわかったし、殿下がいないときに、丘で色々と楽しもう。


何はともあれ、やっと一息つける、そう思ったのだが…


「それよりお嬢様、すぐに湯あみとお着替えを。もうすぐディナーのお時間です」


ん?ディナーですって?どうして夕食を食べるだけで、湯あみと着替えをしないといけないのかしら?あ、そうか。動きやすいワンピースに着替えると言う事ね。それにドレスも木登りをしたから、汚れてしまったし。


そう思っていたのだが、なぜかまたドレスアップをさせられた。これは一体…


「いいですか?お嬢様、今度こそ粗相のない様にお願いしますよ。本当にお嬢様は」


粗相がない様にとは、一体どういう事なのかしら?


「クロハ、私をどこに連れて行くつもりなの?」


「どこって、陛下や王妃殿下、王太子殿下や他のお妃候補たちとディナーを頂く事になっているでしょう?今日執事の方から、お話しがあったはずですが」


そう言えば執事が何やら色々と説明をしていたけれど、全く聞いていなかったわ。


「もしかして、ディナーは毎日皆で頂くの?」


「お嬢様、お話しをきちんと聞いていなかったのですか?そうですよ、ディナーは王族の方たちとお妃候補たちが交流を持つ大切な場所なのです。お嬢様、くれぐれも粗相のない様にお願いしますよ」


「ねえ、クロハ、その面倒なディナーを欠席する事は…」


「できません!本当にお嬢様は。ほら、参りますよ」


また怖い顔でピシャリと私の言葉を遮ったクロハ。本当に私に厳しいのだから。仕方ない、さっさと食べてさっさと戻ってこよう。


重い足取りでディナー会場へと向かった。すると、既にお妃候補者たちが席に着いていた。



「マーリン様より遅く来るだなんて、随分といいご身分だ事ですわ」


「侯爵は一体どんな教育を受けさせてきたのかしら?やはり領地で生活をしていると、一般的な常識が見に着かないもの名ですわね」


相変わらず2人の令嬢が私に暴言を吐く。本当にこの人たち、人の悪口しか言わないのかしら?


「お待たせして申し訳ございません。私の父は、人一倍教育にはうるさい人間でしたので、人様のあらさがしや悪口を平気で言う様な品の無い人間にはなりませんでしたわ」


扇子で口元を隠し、笑顔で答えてやった。


「何なの、あなた!私たちがまるで品の無い人間みたいじゃない!こんな失礼な令嬢は初めてだわ」


相変わらず顔を真っ赤にして怒っている2人。本当に茹でダコだわ。


そう思ったら笑いが込みあげてきた。


「ちょっと、何を笑っているのよ!」


「いえ、その様なお顔をひと様に晒すだなんて…まるで茹でダコみたいですわ」


「なんですって!黙って聞いていれば!」


怒りをあらわにした1人の令嬢が、私を扇子で叩こうと、手を大きく振りかぶったのだ。

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