第7話 殿下と仲良くなってしまった?
私の元までやって来た殿下は、隣に腰を下ろした。
「やれば出来るのですね。ほら、見て下さい。とても綺麗な夕日でしょう?街が夕焼けで真っ赤ですわ」
「本当だ、こんな綺麗な夕日は、初めて見たよ…王都の街が、赤く染まっている」
「赤く染まると言えば、今日の令嬢たち、茹でダコみたいに真っ赤な顔をして怒っていらっしゃいましたね。本当にあんな真っ赤な顔をして怒る人間がいると思ったら、おかしくて笑いを堪えるのに苦労しましたわ」
あの真っ赤な顔を思い出して、つい吹き出してしまう。
その瞬間
「ハハハハハ、確かに茹でダコみたいな顔をしていたね」
そう言って声を上げて殿下が笑ったのだ。
「あら、人間らしい一面もあるのですね。ずっと作り笑いを浮かべていたので、この人は感情がないのかしら?と思っておりましたのよ」
「僕だって感情くらいあるよ。でも…僕は王太子だから、自分の感情で動く事は出来ないよ…」
「王太子殿下とは、窮屈なのですね。私は自分の生きたいように生きますわ。だって、私の人生は私の物ですもの。誰のものでもありませんわ」
だから私は、このお妃候補の半年間が終わったら、領地でのんびり暮らすのだ。その為に今、私は頑張っている。
「自分の人生は自分のものか…ヴィクトリア嬢、僕は…」
「殿下、それにヴィクトリア様、いい加減降りて来てください!そろそろ面会時間の1時間が過ぎようとしておりますよ!」
下で執事らしき人物が叫んでいる。
「もう時間だそうですわ。殿下、今日は丘に連れて来てくださり、ありがとうございます。これで1人でも丘に向かえますわ」
「この丘に1人で来てどうするのだい?」
「乗馬をしたり、剣の稽古をしたり、木に登ったりするのですわ」
「君は令嬢だろう?乗馬や剣だなんて…それに木登りなんて以ての外だ」
「あら、殿下だって今、木登りをしていたではありませんか?それに私は、自分をずっと偽る事は出来ませんわ。もちろん侯爵令嬢ですので、公の場では令嬢らしくします。でも、それ以外の場所では、自分の真の姿を出してもいいと思いますの。そうしないと、息が詰まりますわ」
「ヴィクトリア嬢、君って子は…」
なぜか殿下が泣きそうな顔をしている。一体どうしたのかしら?そう思っていると
「殿下、ヴィクトリア様、いい加減にしてくださいませ。さあ、降りますよ」
いつの間にか木の上までやって来た護衛騎士に、米俵の様にして抱きかかえられた。
「私は1人で降りられますわ。ですから殿下を」
「勝手にヴィクトリア嬢に触れないでくれ!本人も1人で降りられると言っているのだ。とにかく、君は先に降りてくれ」
「しかし…」
「いいから、下から僕たちを支えてくれ」
「承知いたしました」
しぶしぶ騎士たちが先に降りていく。さあ、私も降りよう。そう思ったのだが、なぜか先に殿下が下りて行ったのだ。そして、下で手を伸ばしている。あの人、一体何をしているのかしら?よくわからないが、そのまま私のスルスルと木から降りたのだが…
なぜか私を抱き下ろそうとしている殿下。
「殿下、私は木登りのプロです。支えていただかなくても大丈夫ですわ」
「でも、君は令嬢でドレスだろう?とにかく、ドレスでの木登りは控えて欲しい。それから…」
「殿下、もうヴィクトリア様との面会時間は終わりです。ヴィクトリア様、お部屋にご案内いたします。どうぞこちらへ」
「それでは殿下、ごきげんよう」
貴族令嬢らしくカーテシーを決め、その場を後にする。
ただ…
「ヴィクトリア嬢、明日また君と一対一で面会できるのを楽しみにしているよ。それから、今更令嬢ぶらなくてもいいよ」
殿下が笑いながら叫び、手まで振っている。私は別に、もう会ってもらわなくてもいいのだが…
というより、殿下に嫌われるために色々としたのに。なぜか仲良くなってしまったわ。あら?おかしいわね。何がいけなかったのかしら?
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