第6話 運命は歯車か糸か
運命の歯車が回りだす? 運命の糸が紡がれる? 運命に導かれる?
「運命って、何なんだろうね?」
無駄にカロリーが高そうなお菓子、三つ目を渡された僕は目の前の天使、
「運命。それはさだめ。天に定められた進むべき道」
「昭和の曲紹介かよっ!」
ふたりしてケタケタと笑う。
あの入院した病院で出会った看護師の四宮さんと僕は退院後なんとなく付き合い始めた。
正確に言えば、准看護師。高校卒業時に准看護師の資格が取れる高校に通っていた四宮さんは、あのベンディングマシンで僕とエンカウントした時は、その高校の上の専攻科に進んでいた。その二年生。卒業時に看護師の資格試験を受験するらしい。
四宮さんとのことを考える度に「運命」という二文字を同時に考えずにいられない。
僕がうめちゃのことを知らなければ、四宮さんに会ったとしても「かわいい人だな」くらいにしか思わなかったかもしれない。「うめちゃに似ている」というのが第一印象を上方修正したのは間違いない。
リアルで恋人(実はまだキスもしていないのだけれども)ができた僕は、徐々にうめちゃ離れが進んでいた。
一年後には、無事に四宮さんも看護師になって、僕も入学直前二か月入院というハプニングがあったにもかかわらず、以降は何事もなく二年生になれそうだ。
こういう時は気が緩む。ん? 気が緩んだのが原因か?
とにかく、僕はやらかしてしまう。いやいや、僕がやらかしたわけじゃないよな。なんというか「そういう関係じゃなかった」ってだけだ。
ある時僕がこういった時だった。
「四宮さんってね、女優と言うか、タレントの卵? いや、ひよこかな。『儈梅花』って人に似てるんだよね」
「え? なかがい、だれ?」
「梅花。普段はうめちゃって呼んでる」
「呼んでる、って知り合いなの?」
僕はごく簡単にうめちゃとの関係を話した。偶然ネットで見かけて、SNSで繋がっていると。
「ふうん。好きなの? 和哉くんは梅花ちゃんのこと」
ヤキモチ妬かせちゃったかな? って思うよね、誰でも。
「いやあ、そんなんじゃないよ。好きなのは四宮さんだけだよ」
口にしたときに気付いた。ほんのわずかな
「あの、ごめんね。それはちょっと、困る、かな」
やっぱり。
恋人だと思い込んでいたのは僕だけだ。好きだと言ったのも、今日が初めてだ。なんで、どこで勘違いしていたのだろう。
失恋とも呼べないような、何とも情けない気持ちで、昼間だというのに涙が零れる寸前だった僕とは違って、四宮さんはあっけらかんとしていた。
「でも、全然いつでも遊べるから。休みの時は病院と全然関係ない人と会わないとさ、気が滅入っちゃうもん」
「え? じゃあ」
もしかしたら今すぐ気持ちに応えられないだけで、いつかは、僕にもチャンスはある。大きなアドバンテージを持って。そう思った。
「うん。また遊ぼうよ。彼氏とデートの予定がない時に」
こんな瞬間でも、運命の歯車か糸か鉄筋かレーザーかなんか知らんけど、動いているものだろうか。少なくともこの瞬間でも、うめちゃは夢に向かって努力していた。
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