第5話 ドラゴンと人間
今日も洞窟の中でガイアは眠りについていた。
だが、いつもと違いガイアは何も考えずにはいられなかった。つい最近友であるエールに言われた言葉がガイアの頭を巡っていた。
瞳を閉じ、ガイアは雑音を閉め出そうとしたがその声はどんどん大きくなるばかりだった。
人間族は悪い奴ばかりじゃないのか。
__奴らは欲望に塗れた汚い種族だ。
奴らは本当に変わったのか。
__そう簡単に奴らの魂は変わらない。
自分は変われないのか。
__違う、俺はずっと俺であり続ける。
自分はずっと孤独のままなのか。
__俺は、
「……誰だ。」
ふと、ガイアは外に魔獣族では無い気配を感じ取った。間違いない。大嫌いな人間族のあの気配だ。
だが妙なことに微塵も魔力を感じなかった。
他者に魔力を感じ取らせらない程の力を持っている相当な手練であると思っていたガイアはその気配の主を見て一瞬だけ動揺を見せた。
自分の目の前にいるのは、白色の髪の小さな少女だったのだから。
だが、そんな事は関係ない。
人間族が自分の縄張りに足を踏み入れたことが気に入らないガイアは鋭い紺碧の瞳にその少女を捉え、少女に自身の大きな爪を振り下ろす。
しかし、少女は動じなかった。恐れのない真っ直ぐな瞳をガイアへ向けていた。
「ドラゴンさん、私と友達になりませんか。」
ガイアは自分の耳を疑った。
目の前の少女は一体何を言っているのか。
少女は確かに言った。自分と友達にならないかと。ガイアはこの少女の正気を疑った。死を目の前にして頭がおかしくなったのかと。
「小娘、何を馬鹿げたことを言っている。この俺が人間族なんかと友になるはずがないだろう。恐怖で正気を失ったのか。」
だが、ガイアは気付いている。
この少女から恐怖や絶望といったものを一切感じないことに。強がっているだけだろうか。それにしては違和感がある。この目の前の少女が一体何を考えているのかガイアには全くもって理解が出来なかった。
ガイアは少女へ問いた。
「何故そんな事を言った。」
「貴方がとても寂しそうだったから。」
余りにも馬鹿げた答えだった。
人間嫌いの頑固なこのドラゴンが少女の目には寂しそうなドラゴンに見えているのだ。
「ふざけたことを言うな。俺が寂しそうだと。貴様如き人間族に俺の何が分かる!俺に寂しいなどという感情がある訳が無い!」
怒るガイアを前にしても少女は一切怯むこと無く未だに真っ直ぐガイアを見つめている。
「私と貴方は種族も姿も違うけど、それでも皆心は同じなんだよ。魔獣族も人間族も寂しいと感じる。そしてそれは1人で抱えて隠してはいけないんだよ。自分の中でどんどん大きくなっていつか心が爆発してしまうから。」
少女は手を伸ばし、ガイアの頬へ手を伸ばす。ガイアは振り払おうとしたが、少女の瞳に吸い込まれたかのように動けなかった。
人間族の手は、こんなにも温かかったか。
欲望にまみれた手は冷たく痛いものではなかったのか。小さな手からガイアは零れそうな程の温かさを感じていた。
この少女は他の人間族と何が違うのか。魔力を持たないこの少女は一体何を隠し持っているのか。ガイアはこの少女への興味が出た。
「いいだろう小娘、お前のことは殺さずにおいてやろう。お前には興味がある。だが友にはならん。人間族が嫌いなことに変わりは無いからな。」
「それでいいよ、でもこれからもここへ会いに来てもいい?」
「眠っている時に来ても俺は相手にしない。少しでも不審な行動を取れば直ぐにお前を殺す。」
「うん、分かったよ。最後に貴方の名前を聞いてもいい?」
「…ガイアだ。」
「私はジニア、よろしくねガイア。」
ジニアは手を振り小道へと戻って行った。
ガイアは出会った不思議な少女の背中を無表情のまま見届けた。
そして、物語は動き始めた。
ドラゴンさん、私と友達になりませんか よさき @yosaki_mekuri
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