自称バカな王様はくもらせたい
邑真津永世
エピローグ
第1話 思春期は思考をくもらせる
"世は賢君にあらず。何の政策を出すわけでもない、おおうつけのバカである。しかしながら、それでも良いと思っている。それはなぜか……?臣民たちが笑って過ごせるのであれば、こんな王もいたのだな……と。脳の片隅ぐらいには残りうるだろう"
そう唱えた、自称バカな王様ことレンドルート・ファン・バミューダ・クアイシスは今、執務室で唸り声を上げながら、人々をくもらせるのに必死だった。
「なぁ、なんでかな。俺政策を間違えて間違い抜いたはずなんだよねっ?…………何でこうも臣民たちからリスペクトの嵐が飛んでくんのぉ!?おかしいだろっ!おれってば、少しだけ頭を捻ったら誰でも思いつくような政策を、ちょっとしかしてないだけなのに!?何でこんなに敬われてんだ!!こんなおかしなこと…………あるぅぅぅぅ?」
そう、全くの苦悶に満ち溢れた表情で、そう語るのは、クアイシス帝国第一王子。帝国王継承権第一候補(実質、このバカな王様が王になるのは自他共に認められている)として、政策を打ち出せと国王……父上にそう言われた自称バカな王様。
《《》》王子の唸り声を聞いて飛んできたメイド長が、オロオロとしながらレンドルートの世話を焼いている。
「ぼ、ぼっちゃま?大丈夫ですか……?」
メイド長のフィメル・レラルトは、敬愛すべきお方に尽くせてとても嬉しそうな表情を一瞬浮かべたが、彼女のメイドとしてのあり方がそうはさせなかった。
普段鉄仮面で、表情を読み取ることができず、他のメイド達からは"氷のメイド長"と呼び名が高い彼女だったが、このバカな王様の前では形無しだ。
「あぁ……大丈夫だよ、フィメル。心配をかけたな」
「い、いえ!!勿体無いお言葉にございます!このフィメル!ぼっちゃまのためならば、裸を晒せと言われましても、即座にこの服を脱ぎ捨てて、ぼっちゃまに抱かれる準備はできておりますっ!!」
そう、彼女にはダメな癖があった。
これまで意中の相手などできてこなかった彼女は、本音を包み隠さず言ってしまうことにあった。
バカな王様はそれはもう面食らっていた。急に自分の貞操観念をかなぐり捨てた発言が、まがいなりにもこんな美人なメイド長の口から直接言われたのだから、当然思春期で間違いないであろう彼の頬は真っ赤になってしまう。
「きゅ、急に何でそうなるんだ!!…………水でも飲んで落ち着きなさい。俺は今政策の改善案を自身で考えているところだから、お前以外の人間は通さないよう通達をしてくれ……」
「かしこまりました!このフィメル、全霊を掛けましてぼっちゃまの御前に何人も近づけさせないように致します!」
「ち、父上は別だよ……?大丈夫だよな……?」
「はい、心得ております!他のクソガ…………他の王子達を通さないと言う意味ですね」
「(今クソガキって言いかけなかったか!?本当に大丈夫かぁ……?ちょっと、暫定王様…………不安だぞ?)そうだ。別にあいつらのことを殊更取り立てて、潰す必要もなく俺はこの国の王になるが、念には念を入れてな?よろしく頼んだぞ、フィメル」
フィメルは一礼すると、部屋から退室する。
彼は今一目散に部屋の中で……先程の発言を思い返すも、普段から目にしている彼女でそう言う想像をする程、自分ははしたない人間か?と思い止めた。
彼だってまだ育ち盛りで思春期真っ只中。そう言った想像は人並みにするが、そんなことは言ってられないぐらい、彼女のことを大事に思っていた。
しかし!!しかしながら、彼は人をくもらせるためならば何を犠牲にしても構わないと思っていた!であるならば、こう言った思いは不要だ!と切り捨てられるほど、思春期はそれを許してはくれなかった。
そう…………思春期は人をくもらせるのである。
それに気づかないまま、彼は政策のことについて考えに考えているが、それを踏まえてご覧いただこう。
「しかしながら、今回の政策は我ながらどうして人をくもらせることができるのか、悪魔的発想だなと常々思うが……何故こうもリスペクトされる原因を作ったのかが謎だぁ」
彼の政策は「臣民は臣民のため、自由に田畑を拡大しなさい。さすれば余計な諍いなく、腹を満たして隣人を大切にすることができるだろう」と言うことを、もっと難しく言い回したものだったのだが、父…………帝国王のバリッセン・ファン・バミューダ・クアイシスはこれを大絶賛。他の兄弟姉妹からも「お兄様のお考えになる政策は凄く臣民の為、ひいては王族の為になりますわ!」と太鼓判を貰うほどだ。
これは良くない、これは良くないぞーと思い至り、こんな言葉を口にする。
「どうしてこんな事になったのぉ?」
自称バカな王様はくもらせたい 邑真津永世 @muramatsueise117
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