第33話 更衣室


 さぁーというわけで翌々日、やってきましためちゃでかウォーターレジャー施設。


 屋内室外流水温水お子様用からガチガチの競技仕様25m&50mまで、プールと聞いてパッと思いつくものはだいたい全部あるすごいところ。平日とはいえ夏休みのまっただ中ということもあって、すし詰めってほどではないけど繁盛してる。受付で一日フリーパスを購入した私と羽須美さんは、浮足立った周りの流れに乗るようにしてロッカールームへ向かった。もちろん、うきうきしているのは私たちも同じだ。


「おー広い」


 これはプール……ではなく更衣室を見ての感想。ものすんごく広い。しかもフロアごとにあるらしい。すげーや。


「ね。あ、黒居さんあっち」


 そんな第何更衣室かも分からない(きっと羽須美さんが覚えててくれるはず)空間内、向かうは端っこの方の、追加でいくらか払えば利用できる小さな個室スペース。もちろん羽須美さんたっての希望で、「あーしが黒居さんの分も払うから」なんて言われたりもしたけど……ここはきっちり、自分の分は自分で。なにせ“奢られは隙”だからね──ってのは冗談として、個室の方がこう、お互い着替えていざお披露目〜って感じで楽しそうだから。私の意思でもあるってことで。


「ほいじゃ羽須美さん、楽しみにしててね〜」


「う、うんっ……!」


 ひらひら手を振りながら、隣り合った個室へそれぞれIN。ささっと脱いで、トートバッグにしまって、さささーっと水着を装着。ラッシュガードも羽織りましては、壁鏡で全身をチェック。うーむ、やはり可愛い。羽須美さんナイスチョイス。パーカータイプのラッシュガードによって上半身の露出はほとんどゼロだけど、シルエットはやっぱりいつもよりくっきりしてる。対して下半身、ショートパンツから伸びるおみ足がすらーりと長い。さすが私、全然運動してないくせに良い体をしておるわ。

 あまりにナイスなボディなもんで、いろいろポーズを取って遊んだりしていたら……少ししてから、隣の個室から控えめな呼びかけがあった。羽須美さんも準備オッケーみたいだ。


「はいでは、せーの」


 タイミングを合わせて、一緒に個室を出る。右へ45度旋回、羽須美さんと向かい合わせに。


「ほっ、ぉあぁっ……!」


「おー」


 お互いがお互いへの感嘆を漏らす。や、羽須美さんのは相変わらず鳴き声めいてるけど。まあとにかく、私をガン見する彼女さんは、こっちも思わずまじまじと見つめてしまうほど可愛かった。

 

 私が羽須美さんに選んだ水着はワンピースタイプのやつで、左肩を見せるワンショルダー。初デートのときもそうだったからか、なんとなく印象付いてたというか、ぱっと見て“これだな”ってなった部分だ。紺に近い黒をベースに、右肩から左胸にかけての白が眩しいツートンカラー。フレアスカートで腰回りの露出度は一見下がってるけど、フリルは薄くて透け感があるからこれはこれでセクシーな仕上がりだ。図らずも二人して同じようなカラーリングになってしまったけれど、まあこれはこれで並んで歩くのにいい感じじゃないかな?

 うーむ…………二日前の私、ナイスチョイス。


「めっちゃ良い。似合ってる」


「ありがと、黒居さんも、その、大変良いです……」


「ふふふ、ありがと」


 素直に嬉しい。んだけど。


「さてさて羽須美さん。問題はここからなのですが」


「は、はいっ」


「どれくらい開けよっか?」


「っっ……!!」


 ラッシュガードのファスナーをつまんで見せる。今は鎖骨のすぐ下くらいまで閉ざされた、いわば第一形態だ。今後もまだまだ変態を遂げると思われる。

 

「おすすめはねぇー……胸のすぐ下くらいまで、かな?」


「そ、そぉー、れは……っ」


 私のはチューブトップだからそんなにがっつり谷間は見えないけれど、それでも強調するような着方をすれば“あ、どうもおっぱいです”って感じにはなる。今しがた試してみたから間違いない。あとは羽須美さんがどこまで欲しがるか、なんだけど。


「ん、ぐぐっ、ふぐぅ……っ」


 あっはは。悩んでおる悩んでおる。推定0.65告白時ほどの赤面状態のまま唸る羽須美さんはずっと見ていたいくらい面白可愛い。だけども他の個室もぼちぼち埋まってきてるし、ずっとここにいたら邪魔になっちゃうかもしれない。なのでまあ、ここはひとまず。


「第二形態〜」


「おぁっ……!」


 ファスナーをちょっとだけおろして、ちょうど胸の真ん中くらいで止める。Vネックのようになったそこから黒い水着が顔を覗かせていて、羽須美さんの視線をめっちゃ感じた。かと思えばふいっと逸らされる。でもやっぱり抗えないのか、ちらちらと揺れ動く瞳。

 なんだろなぁ。そりゃこの黒居 仁香ちゃんは超絶美少女なものだから、他人からの視線を向けられることも時折あるし。そういうときはまあ、ダメだぞってな気持ちになるものだけども。羽須美さんのはヤじゃないんだよねぇ。むしろこうやって、からかいたくなっちゃうくらい。


「羽須美さん」


「ひゃいっ」


「彼女さんなんだから、もっと堂々と見ても良いんだよ?」


 そもそも見られたくなかったら一緒にプールなんて来ないし、こっちの水着を推したりしないわけで。ちゃんと言葉にしてそう伝えてみれば、羽須美さんは返事になってない声を漏らしながらこくこく頷いていた。かわゆいねぇ。

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