6月
第10話 しゃーん&まるーん
はい、ふと気がつけば6月に入っていたってわけよ。
羽須美さんと付き合い始めてからぼちぼち一ヶ月くらい、彼女は“付き合って何ヶ月記念日♡”みたいなのはあんまり気にしない系の人みたいで、それはさておき今日は健康診断だぜ。
運動技能系は元より壊滅的なので触れないでおくとして(羽須美さんはその辺全般的にハイスペックだった)、体の凸とか凹とか重さとか長さとか大声で言える数値とか言えない数値とかもまるっと測られてきたわけなのですが。
一部の項目で下着姿になるってんで羽須美さんが複雑そうな顔してたり、それが実測時にカーテンで区切って養護教諭の前でだけ体操服をめくり上げれば良いだけってことでちょっと安心してたり、その養護教諭のおばさまが良い意味で事務的に測ってくれるタイプの人でさらに安心していたり、今日も羽須美さんおもしろ百面相は健在だった。
てわけでうちのクラスは午前中で全項目終了して、今日のために減量に励んでいたらしい一部のクラスメイトたちがお菓子ぱーちーを繰り広げている、そんな昼休み。すっかりおなじみとなった私、羽須美さん、上山さん、下谷さんの四人の、今日の食後の駄弁りテーマは──
「──え、羽須美より黒居の方が背高いの!?マジ!?」
「まじ?」
「マジらしいよ」
ってな感じだった。
「あーしもちょっとびっくりした。近いとは思ってたんだけど」
なんて言ってる羽須美さんの身長は167cm、見立て通り同年代女子の平均よりも約10cm高かった。突出した長身……ってほどではないんだけど、姿勢の良さも相まって女子集団の中にいると(あ、背ぇ高いな)って思わせるような、それくらいの身長。
んで、私はそんな彼女さんより少しだけ高い170cm。口頭で伝えると「えー、背ぇ高ーい」て言われる可能性が跳ね上がる1.7mラインぴったし。わずか3cmとはいえ、私の方が明確に背が高い。だというのになんでこんなにびっくりされてるのかと言うと、それはまあ普段から猫背だからですね、はい。
「え、ちょっと並んでみ?」
「み?」
上山さんたちに促されて横並びに立ってみるも、やっぱり片やしゃーん、片やまるーんって感じで、目測では羽須美さんの方が高く見える。いつもの光景だ。
「黒居、背筋伸ばしてっ。もっとしゃんと……あーもう、いっぺん背中合わせになれっ」
「なれ」
「はーい」
「っ!?」
追加のオーダーが入り、言われるがままに羽須美さんと背中をくっつける。ピンと伸びた彼女の背中を身長計の柱に見立てて、頭、肩甲骨、かかと、お尻を軽く押し付けた。おやおや、なんだかより一層、羽須美さんの体がぴんってなった気がしますなぁ。背中越しに強張りを感じながら、定規を当てて目を細める上山さんの沙汰を待つ。
一方そのころ下谷さんは、ちゃんと背が伸びているかチェックしてますみたいな顔して上山さんの乳を頭に乗せていた。
「ほ、ほんとに黒居の方がデカい……!」
「デカい」
「どやぁ」
下谷さんのその「デカい」は誰の何に対してなのかちょっと怪しかったけど、まあとりあえずどや顔チャンスなのでどやっておく。限界が来たらしい羽須美さんの体が離れていって、ちょっと頬を赤らめた彼女が視界に収まった。かわゆいねぇ。
「えーすごっ。なんか高身長っぽいこと言ってみ!」
「み」
内心でにまにましているうちに、ものすごく雑な振りをされた。しかたないなぁ。
頑張って背筋を伸ばしたまま、重心を後ろにずらして斜に構える。流し目を意識しつつ、右手で髪を軽くかき上げて──
「──来なよ。私と同じ“““高み”””まで」
「うおぉぉぉっ!なんか知らんけどかっけー!!」
「かっけー」
大好評だった。こんなんでいいんだ。まあ格好良い私はけっこうレアだからね。テンション上がってしまう気持ちも分かる。
「あ、もうむり」
「露骨に縮んだ……」
はい、ゲージが尽きたので猫背に戻りました。
「く、黒居さん、その、可愛い系もかっこいい系もいけるんだね」
なるべく自然なふうを装って、そう言ってくれる羽須美さん。最近はこうやって、他の人といるときにもさりげなく褒めてくれることが増えてきて嬉しい。成長を感じる。
「なー。いやぁ眼福だわー」
「わー」
同調する上山さんたちにも再度どや顔を返しつつ、隙を見て羽須美さんにウィンクを飛ばす。家族からは眠そう可愛いって良く言われるやつ。
「おわっ。どしたん羽須美、急にのけぞって」
「や、ちょ、ちょっと足がもつれちゃって……!」
なんてこったい私の彼女さんが足ぷるぷるのコジカ・ボーン・オン・ザ・ガイア状態になってしまった。我ながら罪深いウィンクだぜ。
とまあそんな感じで、目線一つで羽須美さんを着席させることに成功したそのあとも──
「──背はあれだけど、胸のデカさならあたしもちょっとしたもんよっ?」
「言うほどちょっとかな……」
「上山の胸は本当にデカいし頭に乗せると分かるんだけど重さがレベチこれ絶対縦に長いやつあとなんかいい匂いもするしいっつもボタンパツパツで常日頃からこれはもうシャツに対する拷問みたいなものだと思ってるこんな拷問ならわたしもされてみたい上山わたしをシャツにしてくれ」
「下谷さんがこんなに喋ってるの始めてみた」
「あーしも」
「……ちょっと熱くなってしまった」
「言うほどちょっとかー?」
……とかなんとか、あんまり賢くない会話に花を咲かせているうちに、今日の昼休みも終わってしまうのでしたとさ。
──あ、あとこれは余談なんだけど。
私の胸も前に測ったときより少し大きくなっていて、下校中に羽須美さんに伝えたら「ほわぁ」って返された。
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