第3話 花の街
マリアーゼからの命令で街へと出ることになったベルレはリードに繋がれた。
リードはこの国の法律で愛玩人形を外出させる時につけなければならない。破ったものは1000万ロズ以下の罰金または懲役10以下もしくはその両方が課せられる。
屋敷から徒歩で10分ほどで着く。この辺りは他の軍人の屋敷やジェントリー階級の者たちの屋敷が建ち並んでいる。
リードに繋がれるのはもう慣れた。2人で歩いていく。
「ベルレなにかほしいものあるか?」
「いえ、特には…」
「遠慮するなよ。せっかく街に行くんだから」
軍人としての職務がマリアーゼにある以上頻繁に街へ行くわけでは無い。帝国軍の本部や詰所などが多いためなかなか街で買い物をするということはない。そして今日は馬車を使わず徒歩で行く。護衛は断っており2人だけであった。
「護衛付けなくて良かったのですか?」
治安は比較的良いとはいえ、それでも名のある軍人であるため狙われる可能性はある。しかしマリアーゼは笑っていた。
「ふふっ。私を誰だと思ってる。戦場で鬼人と言われるような女だぞ?暴漢なんぞに遅れはとらん」
「それに、お前との時間を邪魔されたくないからな」
嬉しそうにマリアーゼは話す。他の軍人やジェントリー階級の屋敷が立ち並ぶ住宅街では何人かの人にすれ違う。こちらに敬礼をしてくる者たちはおそらくマリアーゼの部下であろう女たち。淑女として綺麗な格好をしている人はジェントリー階級つまり資産家である。
ここにきて2年ほど経つベルレであるが未だに慣れない。今まで生きてきた環境とはまるで違い華やかに感じるのだった。
「おや、これはこれはレイジングブラッド大佐」
1人のマダムが話しかけてきた。妙齢の美しい美人である彼女の手にはリードがあり、すぐ側にはベルレと同じ年頃の愛玩人形の少年がいた。
「これは。マダム・アドリッド。今日はどちらに?」
「今日はちょうど料理で使うスパイスを買いにセントラルの方へ行ってたのよ。大佐はベルレちゃんを連れてどちらに?」
マダム・アドリッドはベルレの方を見て微笑みながら言った。彼女、マダム・アドリッドはマリアーゼの知り合いである。貿易会社の社長をやっており、かなりの資産家である。
「いい天気なのでセントラルに買い物を。あとはベルレの散歩を兼ねて」
「そうなのね。うちのこも外の空気を吸わせたかったから一緒に行ってたのよね」
マダム・アドリッドのそばにいる少年はグリーレという名前である。ベルレとはたまにこのように会うことがある。顔見知りと言った方が正しいか愛玩人形同士で会話などはしないため彼のことはなどベルレはあまり知らない。
ただグリーレももとはベルレと同じような境遇であることから、言葉を発さずとも通じあうことはできる。お互いにじっと顔を見て考えていることはおそらく同じである。
いい飼い主の元に来れて良かったな。ということである。
マリアーゼとマダム・アドリッドが少し話をした後にお互いに向かう方向へと別れた。
「ではごきげんよう。お母様によろしくね」
「…はい。今度あったら伝えておきます」
お母様という単語が出た時に少し苦い顔をマリアーゼはしていた。
マダム・アドリッドと別れた後に目的のセントラルへと向かって行く。先程のマダムとの会話の時のような凛々しさとは違いベルレといる時は穏やかな感じであった。
「ベルレ。結局欲しいものは?」
その話に戻った。
「そうですね…。では本を1冊ほど…」
「ん?1冊でいいのか?別に何百冊でもいいんだぞ?」
流石軍の大佐をやっていることなだけあり考える規模感が違った。しかしベルレは首を横に振った。
「マリアーゼ様。僕は1冊で構いません。じっくりとその本を読みたいのです」
「そうか…」
少し悲しそうな顔をしていた。しかし、本1冊1冊丁寧に読みたい派のベルレには何百冊の本は持て余してしまう。第一どうやって持って帰るのか分からない。
そんな感じで何気ない会話をしているうちにセントラルへと着いた。
セントラル。ディアナト帝国の首都であるここは大都市であり、建物の他に色とりどりの花を装飾品のように身につけたこの場所は花の街と呼ばれている。街の正面門には銃を持つ軍人が左右に立ちこちらに敬礼をしてくる。
私服であってもマリアーゼだとすぐに気づいたのだろう。彼女は2人の軍人に「ご苦労」と一言行ってベルレとともに街へと入っていく。
たくさんの人で活気溢れているこの街。中にはベルレと同じような愛玩人形がご主人様にリードを握られて歩いている。
この街の中央の奥側には皇帝の居城マグリサス城が堂々と構えて立っていた。
「凄いですね…セントラル」
「そうか?まぁ…私はいつも見てるから別に特には思わないが…」
ベルレは普段屋敷にいるためセントラルに行く機会は殆どないと言える。全く行ったことがない訳では無いが2年間で2回行ったくらいであり屋敷周りとは違う華やかさと喧騒さが新鮮に感じられるのである。
「さてと、じゃあ本屋にでも行くか?」
「ありがとうございます。マリアーゼ様」
2人はセントラルの本屋へと向かっていった。
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