第2話 帝国軍大佐マリアーゼ
あの出会いから2年が経った。
ベルレは軍人マリアーゼ・レイジングブラッド大佐のもとで
マリアーゼは暴力的で偉そうな教官や看守などとは違い穏やかな対応をしてくれた。
「よしできた…」
天気のいい日にベルレは洗濯物を干していた。
綺麗なワイシャツとスラックス、エプロンを身につけてそして服従の証とも言える銀の首輪をつけて家事に勤しんでいた。
マリアーゼの下着と思われるものも洗ってはいた。もちろん最初こそは戸惑うこともあったが、今では慣れてしまい特に何か感じるということは少なくなった。
マリアーゼ以外にも住み込み人もいるため必ずしも彼女とは限らない。
「あらベルレ。おはよう」
ベルレに挨拶をしてくれたのはマリアーゼの屋敷に住み込みでいる庭師のテレサ・ノックスであった。作業着のつなぎをきて胸元大胆に拡げている活発そうな女性である。
「テレサさん。おはようございます」
テレサは一般階級出身の人でこの国では珍しく男を見下すタイプの女性である。ただしあくまでマリアーゼの愛玩人形として見ているだけである。
「はい」
テレサはベルレに右手を見せてきた。特に手のひらに何かある訳では無いが、ベルレにはどういう意味かすぐにわかった。
「はい」
テレサの右手のひらに同じく右手を乗せてまるで犬のお手のようにして見せた。
その仕草にテレサは満足そうな笑い、ベルレの頭を撫でた。
「いい子だね」
これを見るように人間としては扱っていない。しかしこれははるかにマシである。ベルレにとっては殴られたり罵倒されたりしないで済んでいるそれだけで充分なのだ。
「そうだこれあげる」
テレサは作業着のポケットから袋に入った飴玉を取り出してベルレに渡した。
「ありがとうございます」
「ふふ、ベルレは可愛いな」
お礼を言うとまた笑顔でわしゃわしゃと頭を撫でて仕事のある庭の方へと向かっていった。テレサはよくこのように接してくれているため居心地が良かった。
もちろん他の住み込みの人達が全員同じという訳では無いもののやはりマリアーゼ・レイジングブラッド大佐の愛玩人形ということで酷いことはされたりしていない。
透き通った青空を眺めてただ無になり風を感じていた。
「おいベルレ」
背後からベルレを呼ぶ声がした。その声の主というのがベルレにとってのご主人様であるマリアーゼであった。寝巻き姿で先程起きたばかりであろう髪の毛はボサボサであった。
しかしキリッとした瞳でベルレの方を見ている。
「どうしましたご主人様?」
「お腹空いた。ごはん」
マリアーゼはお腹あたりをさすって朝ごはんを催促してきた。マリアーゼの屋敷で彼は彼女の身の回りの世話の他家事を行っている。
前は使用人がいたらしいのだが、気に入らなかったのか、多数の人たちをクビにしたとの事である。
「はい。ただいま!」
「ん。早くしないと餓死してしまう」
マリアーゼは若くして大佐の地位に上り詰めており、鬼人のマリアーゼの異名持っている。
その異名通りの世間では畏怖されつつも尊敬されるというかっこいい軍人像を見せているが、ベルレの前では違った。
「ベルレ。私は目玉焼きを5つとベーコン多めにパンケーキが食いたいぞ」
「かしこまりました」
家事は一切できなく。なんというか子供っぽさがあり愛嬌がある。さらにだらしないところがある。鬼人のマリアーゼととても呼ばれるような人にはベルレには見えなかった。
洗濯物を干し終えると朝食作りに取り掛かる。
彼女の要望通りに薄めの生地のパンケーキを先に作り目玉焼きを5つ焼き、ベーコンを多めにした。
広い食堂にて彼女の席に朝食を並べた。寝巻きから普段着のジーンズと白のワイシャツを着て髪の毛は梳かして整えていた。
「やっとだよ。お腹と背中がくっつきそうだったぞ」
「すみませんご主人様。どうぞお召し上がりください」
「ありがとう。いただきます」
フォークとナイフを持って朝食を食べはじめた。マリアーゼは大食らいであり朝食でもたくさん食べる。先程のパンケーキとベーコンエッグの他にもサラダやオニオンスープ、マッシュポテトなどを作って持っていき、彼女どんどん食べ進めていく。
「北部紛争拮抗状態か…。一筋縄ではいかないか…」
マリアーゼは新聞読みつつ朝食を食べる。最近は北部紛争の話題の記事が多くベルレもたまに記事を見ていたので内容を知っていた。
「まぁ前線部隊にはヴィヴリアがいるからな…。まず負けることは無いだろう…」
もぐもぐとベーコンをフォークに刺して食べている。ベルレは立ってその姿を眺めていた。グラスの水がなくなれば直ぐに注いでいた。
「なぁベルレ?お前はどちらが勝つと思う?」
「そうですね…。僕はただの愛玩人形なので分かりません…」
北部紛争はもう7年も続いている内乱であり、未だに拮抗状態である。
しかしベルレの回答に不満げな顔をマリアーゼはしていた。
「新聞は私が読んだ後に読めと言ってるだろう?愛玩人形だろうが、世情を知ることは大事だ。」
「すみません。次からそうします」
「ふふっ。お前の私のものだから私の望むことをするのがお前の役目だ」
「私は別に他の馬鹿な貴族なんかとは違って、可愛がるだけの飼い犬飼い猫のようにはしない。制限の範囲内で自由にしたらいい」
「ありがとうございます。ご主人様」
愛玩人形というのは普通は飼い主を満足させる犬や猫とほとんど変わらないそれがただ人間の男と言うだけの話である。しかし愛玩人形も様々な種類がある。少年が好みのものもいればある程度身体ががっしりとしたものなど様々である。だいたい需要があるのは少年タイプであり、ベルレなどが該当している。
彼らは特殊な薬品を注射されて第二次成長を意図的に止められたり弱められたりしている。
もちろん無理やりである。品種改良として行われている。それがまかり通る世界である。
「しかしなぁ…。2人っきりの時はファーストネームで呼べといってるだろ?」
「そうは行きません。僕のようなものがご主人様のファーストネームを呼ぶなど恐れ多いです」
これはあの収容所時代の癖のようなものである。基本飼い主のことはご主人様と呼ぶように叩き込まれたため、ファーストネームで呼ぶなどできない。そんなことやってしまえば罰を受けるからである。
「私の命令だぞ?私と2人っきりの時は下の名前で呼べ。わかったな?」
「しかし…」
「わかったな??でなければお仕置きだぞ?」
「は、はい…」
こういう時には軍人としての圧を使ってくるのがマリアーゼである。なぜそこまで下の名前を呼ばせたがるのかはベルレには分からなかった。ただ、ここに来て2年経ったがこの下の名前を呼べという命令だけはなかなかに遂行できていない。過去トラウマがフラッシュバックしてしまいそうさせないためよく言われてしまうのだった。
「さてと」
マリアーゼは食事を残さず平らげた。流石というべきか、お皿は綺麗に食べ物が無くなっていた。マリアーゼは席を経って食堂の窓を眺めていた。
「今日はいい天気だ」
洗濯日和と言える快晴の空を満足そうに見つめている。ベルレは食器を片付けはじめていると彼の方を振り返ってこういった。
「出かけようか」
ニコッと彼女は笑っていた。
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