第7話 初めての呼び出し、決意


「こんにちは、ユーリさん」


「こ、こんにちは……」


 みんなと楽しくお茶をしてから数日。


 眠い目を擦りながら久しぶりに冒険者ギルドへ足を運ぶと、いつもの受付のお姉さんが営業スマイルを全開で俺に話しかけてくる。


「レッドワイバーンの討伐、ご苦労様でした。その件について、ギルドマスターからお話があります」


 ギ、ギルドマスター!? ……えええ!? ギルドの一番偉い人ってこと!?


「……お時間、よろしいですか?」


 綺麗な笑顔で圧をかけてくるお姉さん。……行きたくないけど、断れる雰囲気じゃなさそうだ。


「は、はぃ……!」


「ありがとうございます。ではこちらへ」


 俺はお姉さんに連れられ、ギルドの奥の部屋に通される。その途中、いろんな冒険者から注目を集めてしまう。


「おいあれ……【漆黒の炎帝】じゃないか?!」「いつにも増して真っ黒だな」「聞いた話ではレッドワイバーンを一撃で倒したらしいぜ」「は? レッドワイバーンって、特級モンスターだよな?」


 屈強な男の人とか、強そうな魔法使いの人とか、そんな人たちがヒソヒソと俺の噂をしている。


 ……いや、レッドワイバーンを倒せたのはレネシアのおかげですよ? と言いたいところだけど、やっぱりあれは俺とレネシアの協力あってこそだったよね!


 あのシーンは今思い出しても、心が躍る。


 二人で協力して強敵を倒す……! まさにだ!


「ここです。どうぞお入りください」


 レネシアとの共闘を思い出しながらニヤニヤしていると、いつのまにか目的地に到着していたようだ。


 他の部屋に比べ少し豪華な部屋に通される。中は綺麗に整頓されていて清潔な感じだ。ギルドマスターの部屋というくらいだから、もっと無骨な感じかと思っていた。


「初めまして、ギルドマスターのレオニスです。お見知りおきを」


 俺を出迎えてくれたのは、黒髪をピシッと決めてメガネをかけた男性だった。めちゃくちゃ仕事ができそう。


「は、はじめまして……ユーリ、でしゅ」


「ユーリさん、ですね。噂はかねがね」


 ……最近はそこそこ普通に喋れるようになったと思ったけど、肝心なところで噛んでしまうのは相変わらずだ。


「……そんなに硬くならないでください。今回お呼びしたのはいい報告ですので。ささ、お掛けください」


 目も合わさずキョロキョロしていた俺を見かねたのか、レオニスさんは柔らかく微笑んで腰をかけるように促してくれた。


 その言葉に従い、俺は上質そうなソファに恐る恐る腰をかける。


「さて……。お話というのはユーリさんの等級についてです。現在貴方は9等級ですが、今回のレッドワイバーン討伐の件を受けて、昇級の方をお願いしたいのです」

 

「しょ、昇級……ですか」


「はい。ギルドの方では簡単なクエストしか受けてらっしゃらないようですが、ギルドといたしましては貴方を9等級のままにしておくのは少し問題がありまして……」

 

 オホン、と咳払いをしてからレオニスさんは続ける。


「昇級しても、特に貴方に不都合になるようなことはございませんので、形式上だけでも昇級していただけませんか?」


「……はい。分かりました」


 俺はレオニスさんの提案を受けることにした。昇級したら薬草採取のクエストが受けられなくなるとかはないみたいだし。等級にこだわりはないけど、上がる分には問題なさそう。


「そうですか! ありがとうございます。では、ユーリさんを4等級として登録させて頂きますね」


 めちゃくちゃ一気に昇級してしまった。そんなに急に上がったら他の冒険者さんたちの非難を浴びないだろうか? 少し心配だ。


「他の冒険者のことでしたら心配ありませんよ。なんせ、貴方を昇級させるように言ってきたのは彼らですからね」


 俺が不安そうにしていたからだろうか。レオニスさんが先回りして俺の心配事を言い当てる。


 というか、そんなに目立ってたのか、俺……。その割には誰も話しかけてきてくれないけど。もっと話しかけてきてください。


 その後、昇給にあたっての手続きをいくつか済ませて、レオニスさんに見送られながら冒険者ギルドを出る。そのせいで、また目立ってしまったのは言うまでもない……。


 ◇◇◇


 ギルドで目立ってしまったのもあって、俺はクエストも受けず街をブラブラと散歩することにした。


 今までは地面とにらめっこして歩いていたから、新鮮な気分になる。大通りの露天では、見たことのないような食材が、見たことのない調理法で、見たことのない料理へと変わっていく。


 そんな光景を横目に、行く当てもなくアーカニアの街を歩いていると、さまざまな種族の人たちとすれ違う。そのことに、改めて異世界に来たんだと実感する。


 気付けば住民区へと来ていたみたいだ。さっきまでの喧騒が嘘のように、閑静な街並が目の前に広がっていた。


 辺りを見回すと、他の家とは規模の違う豪邸があるのに気付く。張り巡らされた柵の間から、楽しくパーティを開いている人たちが見えた。


 ……そうだ! パーティだ!


 その光景を目にして、俺の中に新しい目標ができた。せっかくの異世界だ。前世ではできなかったことをやりたい。この世界で知り合った人たちを集めて、パーティをしたい。


 ……そのためにはお金が必要だ。せっかく昇級したことだし、明日からはお金の稼げそうなクエストを受けることにしようかな。


 もしかしたらそこで新しい出会いもあるかもしれない。クエスト終わりに、酒場で楽しく食事なんかできたら……最高だよね!


 ――そんな輝かしい未来のためにも、明日からも頑張ろう!


 ◇◇◇


「マジ可愛いんだけどっ! ねぇねぇ、お名前はなんていうの?」


「ぇ、ぇと……。ユーリ、でしゅ……」


「でしゅ、だって! しかも声もめちゃカワイイじゃん! オドオドしてるのもワタシ的にポイント高いよっ!」


 数日後。


 ――俺は早速その決意をしたことを後悔することになるのだった。


 

──

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