第2話 初めての友達……?


 ……話を聞く限り、どうやら俺のファイヤーボールは普通じゃないらしい。


 ぼっちすぎて他の人の魔法を見たことがなかったから気付かなかった。あの魔法はなるべく使わないようにしよう。目立ちたくないし。


 ……というか、この二人はこんなところでなにをしていたんだろうか?


「……なんでここに?」


 聞いていいのか少し迷ったけど、思い切って聞いてみる。いきなりプライベートに突っ込んでしまったけど、大丈夫かな……?


「え、えっとそのぉ……」


 アイリスさんがモジモジと人差し指を擦り合わせながら、俺から目を逸らす。心なしか顔が赤い。


 ……も、もしかして聞いてはいけないことだった!?


 いきなり距離感を詰めすぎたか!? ここはさっさと謝るべきか!?


「……アイリスはあなたのファンなんです。それで、追いかけてきたら迷子になってしまって」


「ちょ、ちょっとミア!?」


 頭をフル回転させていろいろな謝罪パターンをシュミレートしていると、ミアさんが事情を説明してくれる。


 ……ファン?


「……はい。ユーリさんは忘れてるかもしれませんけど、アタシ、一度あなたに助けてもらったことがあるんです」


 ……そういえばそんなこともあったような気がする。


 あれは二週間ほど前だったかな。確かモンスターに襲われてる女の子を助けたような……。


 俺の記憶が正しければ、森の入り口くらいにいる雑魚モンスターだったからいつものようにファイアボールで倒したはず。


 目立ちたくなさすぎてさっさと立ち去ったせいで、顔をまったく見ていなかった。そうか、あの時の女の子がアイリスさんだったんだ。


「それから何回も話しかけようとしてはやめてを繰り返していたんです。こう見えてアイリスは照れ屋なんですよ?」


「言わないでよぉっ! ……だって、ユーリさんいつも一人でいたから……」


 はい、俺はぼっちです! 改めて言われるとすごく悲しい!


「……気にしなくていいよ」


「ほ、ほんとうですかっ! じゃあこれからどんどん話しかけますね!」


 な、なんだって!?


 自分から人に話しかけるのが一番苦手だからとても助かる。女神かな?


「……帰ろうか」


 ここに長居していたらまたモンスターが出てくるかもしれない。俺の意見に二人も頷いてくれる。


「……その前に」

 

 彼女の身体にある傷を二番目に覚えた初級回復魔法、【ヒール】で癒す。このままじゃ痛いもんね。


「『聖なる光よ、癒しを与えたまえ。ヒール』」


「……えっ?」


 短く詠唱すると、俺の手のひらから暖かい光が溢れ出す。その光が彼女の身体を包み込み、全身の傷を癒していく。彼女は突然のことに驚いてアタフタしている。


「……すごい。こんな回復魔法見たことないです……」


 ミアさんがポツリとこぼす。


 え、ヒールって傷を癒す魔法だよね? これが普通なんじゃ……。


「ユーリさん、ありがとうございますっ!」


 ……まぁ、なにはともあれアイリスさんが元気になって良かった。隣でミアさんは固まっちゃったけど。


 彼女の反応を見るに、どうやらヒールも普通じゃなかったらしい。これもなるべく使わないようにしないとな……。


 ――そうして、俺たち三人はアーカニアに帰るために歩き出すのだった。


 ◇◇◇


 帰り道はなかなかの空気だった。


 アイリスさんが一生懸命話しかけてくれるんだけど、色々考えすぎたせいで、俺は黙って頷くだけの機械となってしまった。


 こんなんだからミステリアスとか言われちゃうんだろうな……。


 話しかけられるとどうしても焦ってしまう。頭の中ではたくさん考えるんだけど、うまく言葉にできない。コミュ障あるあるの一つだ。


「それじゃまた――」


 街の入り口まで帰ってきたところで、そう言い残し立ち去ろうとする。あたりはすっかり真っ暗だ。


 二人とは少しは仲良くなれたと思うけど、まだ友達とはいえない距離感。次はもっと仲良くなりたい――。


「……あの! よかったら、これから一緒にお食事しませんかっ!?」


 ――なんて考えていたら、アイリスさんが意を決したように大きな声で言う。まるで一世一代の告白をする時のような顔。


「…………いいの?」


 突然の出来事に焦った俺は、よく分からない返答をしてしまう。誰かと食事なんていつぶりだろう。少なくともこの世界に来てからは一度もない。


 夢見た酒場での語らいのチャンスなのは間違いない。しかし、俺なんかと食事をして楽しんでくれるかな? アイリスさんに失望されないかな?


 いろいろな心配が頭に浮かぶ。


 かといって、ここで断るのは彼女に申し訳ないし……。せっかく俺のファンだと言ってくれたんだから、何かできることがあるはず。


「もちろんです! アタシ、ユーリさんともっと仲良くなりたいんです!」


「わ、わたしもです!」


 なんて嬉しいことを言ってくれるんだろう。感動で少し涙目になる。


「私も……仲良くなりたい」


 ――言えた! 言えたぞ!

 

 やっと正直に自分の気持ちを言うことができた。口にしてみれば、簡単なことだったんだ。俺は、この二人と仲良くなりたいんだ。


『自分の気持ちを相手に伝える』


 これがコミュニケーションの第一歩だと、ようやく理解した。相手のことを考えるのも大事だけど、そればっかりでは関係が深まらない。


「やったっ! じゃあ、アタシ達の行きつけのお店に行きましょ!」


 嬉しそうに飛び跳ねながらアイリスさんが言う。そんなに喜ばれるとは思わなかった。


「……分かった。あと、ユーリでいい。敬語もいらない」


「ほんとっ!? じゃあユーリって呼ぶね!」


「ああっ! アイリスだけずるいです! わたしもユーリ、と呼びますね」


 やった! 目標の一つ、『タメ口で同年代の子達と喋る』が達成された。敬語のままじゃ距離は縮まらないよね。


「……こ、これからよろしく」


「「はい!」」


 俺たちは握手を交わす。アイリスの手は、剣士らしい少しゴツゴツした手。ミアの手は小さく柔らかい暖かい手だった。……手汗とか大丈夫かな。


 ――そうして、俺は初めての経験にワクワクしながら、夜のアーカニアの喧騒に踏み出すのだった。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る