【TS】人見知りの俺が異世界転生したのは最強の美少女エルフでした〜友達を作ろうと頑張っていたら、いつのまにか【漆黒の炎帝】と呼ばれている件〜
モツゴロウ
第1話 人見知り美少女エルフとファイアボール
「……なぁ、知ってるか? 最近えらい美人のエルフがこのギルドにいるって話」
二人で大通りを歩きながら会話している二人組。どちらも歴戦の猛者といった風貌のいかついオジサンだ。
「ああ、知ってるぜ。めちゃくちゃつえぇらしいな。なんでも、【慟哭の森】の深層にいる特級モンスターを一人で倒してるらしいじゃねぇか。……正直、信じられねぇけどよ」
「しかも無口でミステリアスって話だ。一度でもいいからしゃべってみてぇぜ」
「やめとけやめとけ。あのロディですらダメだったんだ。お前には無理だよ」
俺はコソコソと物陰に隠れて、そんな他愛のない噂話を聞いていた。
多分あの噂話は俺のことだろう。口下手だからずっと黙っていたら、いつのまにかそんなイメージがついたらしい。
ミステリアスとか全くそんなことはないのに! 謎なんて一つも抱えていませんよ!
……というか、特級モンスターってなんだ? そんなヤツ倒した覚えがない。噂に尾鰭がついたんだろうか?
ここは
交通の要所として、たくさんの人が行き交う騒がしい街だ。いつもこの時間は多くの人でごった返しになっている。いろんな出店から聞こえる客引きの声。
そんなたくさんの人々が暮らすこの街で、俺は浮きに浮きまくっていた。
極度の人見知り。
そのせいで、せっかくの異世界だというのに、いまだに誰ともまともな会話を交わしていない。
前世でも人見知りだった俺が、異世界で上手くやっていけるはずもなく……。
こちらの世界に来てから、もう
その原因となっているのは、極度の人見知りで口下手というのもあるけど、それ以上に俺の姿が
絹のようなさらさらの金髪。
少し切れ長の大きな碧い瞳。
スレンダー、でも存在感のある胸。
身長は175センチくらいだろうか。前世と同じくらいだ。女性にしては高い。
こんな目立つ容姿に加えて、この国では珍しいらしい
こっちの世界に来て初めて自分の顔を見た時はビックリした。身体を見て女の子だというのはすぐ気付いたけど、まさかこんな美少女だとは。
その美しさのせいか、周りからは少し距離を置かれてしまっている。
思い返せば、一度だけ仲良くなれそうなチャンスがあったんだけど――。
◇◇◇
あれは街の中心にある噴水の前で黄昏れていた時のことだ。
やることもなかったから街行く人間を観察していると、ものすごい爽やかイケメンが話しかけてきたことがあった。
「やぁ、可愛らしいお嬢さん。よかったらこれからお茶でも一緒にどうだい?」
「………………」
「………………あれ? どうしたのかな?」
突然話しかけられたことに驚いて黙ってしまったのが良くなかったのだろう。爽やかイケメンはその沈黙に耐えきれずにそそくさとどこかへ行ってしまった。
「おい、あのロディでもダメだったぞ!?」「ガードが硬え!」「見ろよ、あの冷たい眼!」「そんなところも素敵だ……!」
◇◇◇
……はい。まったくチャンスを活かせませんでした!
そのレベルの人見知りが、あんなイカついオジサン達と会話するなんて夢のまた夢である。
普段は目深にローブを被って顔はある程度隠してはいるけど、声は変えようがないから女だとすぐにバレる。
目立たないように
……ミステリアスとか妖艶とか言われて余計に目立っちゃったからな。ただのコミュ障だよ!
……はぁ。
半年もまともな会話をしていないせいで、そのコミュ障ももっとひどくなってきたしなぁ。最初は軽い挨拶くらいはできたのに、最近はほとんどボディランゲージ頼りになってるし。
――これは由々しき事態だ。どうにかしないと……!
せっかくの異世界だ。一人で生きていくのはあまりに寂しい。
俺も胸躍る冒険とか、夜の酒場での語らいとかしたい!
ドヤ顔で武勇伝を語りたい!
信頼できる相棒と一緒に冒険したいっ!
……そんな輝かしい未来のためにも、
今日は絶対に誰かに話しかけるぞ!
そんな小さな目標を持って、アーカニアの冒険者ギルドの扉をくぐる。
ここはお世話になっている行きつけのギルドだ。こっちの世界に来てからほぼ毎日足を運んでいる。
……まぁ受付のお姉さんとしか喋ってないんだけどな!
一応、生活費くらいなら今のところどうにかなっている。
まだ大したクエストは受けていないが、それでも贅沢をしなければ、普通に生きていくだけの稼ぎはあるし。
誰とも会話しなくてもいい点も、俺にとってはご褒美だ。
……そのせいでこんなことになっているのは否定できないけど。だって楽なんだもん。
そんなことを考えながらいつものように気配を消しつつ、クエストボードに向かう。
そこにはさまざまな依頼が貼られていた。クエストを受けたい人はここから依頼を選んで受付に持っていくというシステムだ。
いわゆる早い者勝ちというやつだ。良いクエストを受けたいなら早めに来るしかない。まぁ俺にはあんまり関係ないけど。
いつもならこのままクエストを受けるんだけど、それでは意味がない。仲間をどうにかして誘わないと、いつものようにソロ活動になってしまう。
……人が少ない今がチャンス!
辺りを見回すと、二人きりのパーティが目に入った。
討伐依頼は基本的に三人からしか受けられないから、もしかしたらあと一人を探しているパーティかも……!
そんな淡い期待を抱きつつ、クエストボードの前で会話しているそのペアに話しかけようとする。
「ぁ、あの――」
「――でさー、あいつなんて言ったと思う?」「なんて言ったんだ?」「それがよぉ、『すいませんでしたぁ……』って半泣きになりながら言ったんだよ! 傑作だよなぁ!」
「「ギャハハハハ!!」」
…………。
……よし。この二人はやめとこう。今日も一人寂しくクエストに行きますか。明日から頑張ろう。
◇◇◇
俺はいつものように薬草採取のクエストを受け、街の近くの森へと足を運んだ。
今日は受付のお姉さんと、少しだけだけど会話することができた。
「今日もお一人ですか?」って聞かれたからちゃんと「はい」って返事ができたからな! 大満足である。
スキップをしながら深く森に入っていく。
森の深部は誰も来ない穴場スポットだ。薬草を取るだけのためにここまでくるのは俺くらいだろう。
この森はそこそこ
魔物自体はちょこちょこ出会う。でっけえオークみたいなのとか、でっけぇトカゲみたいなのとか。
そいつらも、初めて覚えた下級魔術、
実際、ここにくるまでに数体の魔物と出会ったけど、みんな一撃で倒すことができた。最近は俺にビビってるのか、魔物と出会うことも少なくなってきたな。
「きゃあああっ!」
いつものように薬草採取を終えて帰ろうとした時だった。 遠くから女の子の悲鳴らしき声が聞こえてくる。
――た、助けにいかないと!
俺は魔力を足に巡らせ、全力で駆け出す。
「グオオオオオっ!」
走り続け、少し開けた場所に出る。
そこには、魔物に襲われている女の子たちの姿があった。
あいつは……いつものオークか!
「こいつはアタシが引きつける! ミアは逃げて!」
「そ、そんな! アイリスを置いて逃げるなんてできません!」
地面にうずくまった金髪の女の子を庇うように、もう一人の赤髪の女の子が剣を構えてオークと対峙している。
このままではまずい!
……まだ距離はあるけど、ここからなら俺のファイアボールなら届くはず!
――急いで魔力を練り上げ、詠唱する。
「『燃え盛れ、炎の球よ!』」
声と共に現れたのは、直径3メートルほどの火球。その熱で周りの空気がジュウジュウと音を立てる。
集中し、オークに狙いを定める。
「……『ファイアボール』!」
手から放たれた巨大な火球がオークへ向かって飛んでいく。予想外の方向からの攻撃に驚いたのか、そいつは避けようともしなかった。
――ドゴオオオオオッ!!
そのままオークは火球に飲み込まれ、灰も残さず消え去った。
……良かった。間に合ったみたいだな。
「「……えっ?」」
二人の女の子は何が起こったのか分からない様子でキョトンとしている。
赤髪の女の子はキョロキョロと辺りを見回し、ようやく俺の姿を見つけたのだろう。腕を抑えながら足早にこちらに駆け寄ってくる。
……マズイ。助けたのはいいけど、これからどうするかまったく考えていなかった。このまま立ち去るのもおかしいよな?
かといって、コミュ障の俺に女の子との会話はハードルが高すぎる。
「あ、あのっ! 助けてくれてありがとうございました!」
どうしようか考えながら黙っていると、赤髪の女の子が声をかけてくる。
「……ぃぇ」
いえ、と言おうとして声を出そうとしたら、久しぶりの会話すぎて声がまともに出なかった。もごもごと掠れた声が、静かな森に響くことなく消えていく。
……………………。
しばらくの静寂。俺が何かを話そうとするとだいたいこんな感じの空気になる。
「……かわいい」
えっ?
……そういえば全力ダッシュしたせいで、フードが脱げていた。顔を見られるのはいまだに慣れないな。
「……あ、いえ……! あの、アタシはアイリスです! こっちはミア!」
気まずい空気に耐えかねたのか、赤髪の女の子が自己紹介をしてくれる。ミアと呼ばれた金髪の女の子もペコリとお辞儀をしてくれる。
「……
2人に聞こえるように、少し大きめの声で自己紹介する。……聞こえたかな?
「……! ユーリさん、ありがとうございました!」
良かった、聞こえたみたいだ。アイリスさんとミアさん。よし、覚えたぞ。
「……気にしないで」
あまり気を遣わせるのも気が引けるので、そう返す。
「ユーリさん、すっごく強いんですね! あの
……ジェネラルオーク?
どうやら今倒したオークはそう呼ばれているらしい。
モンスターにはそこまで詳しくないけど、こいつとは何回か戦ったことがあった。
あの時は、確か十体ほどを相手に――。
「普通、一体倒すだけでも3級冒険者が10人は必要なのに……!」
そ、そんな強かったの……? もしかして受付の人が言ってたモンスターってあいつ?
「……あの魔法、上級魔法ですか? とんでもない威力でしたけど……」
……上級魔法?
ええと、普通の
──
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