うさぎやら鳥やら…
昨日、悪名高き神ロキと数千年ぶりに再会し、会話は弾むがまるで面白くない時間を過ごした。
しかし全くの虚無な時間だったわけでもない。
彼からパトリッセ(世界樹でラティが出会った少年の兄)の居場所を教えて貰えた。
パトリッセは普段、街中央に位置する市場の南側でりんごを販売しているらしい。
普通であれば、青果を販売する者は様々な種類を取り扱う。
だから、りんごばかり扱うパトリッセの店は結構目立つの出そうだ。
それを聞き、ラティは次の日にさっそく市場に足を運ぶ。
パトリッセから、さらっと現在の生活と、灰色の猫が示す条件に合う黄色いりんごの苗の入手法を聞くつもりだ。
ただ、せっかく市場に来るのだから、たったそれだけの用事を足すだけでは勿体ない。
ついでに、チョコレート用の材料や、世界樹に持ち帰れそうな珍しい食材などを物色するつもりだ。
先月パステイト市の市場を歩いてみて、改めてこの街の市場の特徴を認識出来るようになったのだが、パステイト市の方は様々な魚介類が売られているのに対し、こちらは肉類や芋類が豊富だ。
差し出される試食を口にするたびに新鮮なおどきがあり、ついつい財布の紐が緩んでしまう……。
「おじさーん! フォレストサーペントの肉を300gと、コカトリスの肉を200gちょうだいー!」
「あいよう!」
手渡される包みをリュックの一番下にしまい込んでいると、南の方向から女性の叫び声が聞こえてきた。
叫び声はすぐにやむわけではなく、どういうわけか、次第に騒ぎが大きくなっているような気がする。
「何が起きてるんだろ? ちょっと行ってくるね!」
「ラティちゃん、気をつけてなー!」
「うん!」
肉屋の店主に手を振り、南へ向かう。
走っていると、通り過ぎる人々の会話などが耳に入ってくる。
「モンスターに襲われてる!」とか、「誰も助けないのはどうして!?」とか、状況が知れるものから、「ざまぁみろ」など、聞き苦しい発言もされている。
誰かがモンスターに襲われているが、あまり心配してもらえないような人間なんだろうか?
さほど走ることなく、リンゴばかりが並べられた店を通り過ぎる。
(あれ? 今のってもしかしてパトリッセの店? 確かに目立つなぁ)
だけれど、今はそれどころではない。
早く市場に現れたモンスターに対処しなければ……。
店が途切れている箇所で、人間が集まっている。
そこを謝りながら抜けると、ようやく見えた。
一瞬三羽の大きな鳥が集まっているのかと錯覚した。
しかし、よく見ると
餌にでもする気なのだろうか?
「……日中こんな人通りが多いところで、なんてこった」
ラティは有翼人種の生態をほとんど知らない。
だけれど、こんな白昼堂々人間を攻撃しているところは初めて見た。
しかも倒れている人間をよく見てみると、昨夜ロキと飲んでいた店の前を通り過ぎていった男––––パトリッセのように見えるし、有翼人たちが着ているのは黒い水着のような服だ。
「バニー達が実は有翼人種で、パトリッセを餌にしようとしてる!?」
昨日あれだけ楽しそうにしていたのに、こんなことがあっていいのかと、ラティはアホみたいに口を開けて有翼人種達の動きを見つめてしまう。
「はっ! 見てるだけじゃダメだった……。誰も助けてあげないなら、私がやらなきゃ」
パトリッセはピクリとも動かない。
今ちゃんと生きているのかどうかはこの位置からは確かめようがないけれど、放っておくことも出来ない。
背負っていたリュックを道端に置き、特大ランスを構える。
「おーい! 羽根の生えた人間どもー! そんな細っこい男を食ったとしても美味しくなんかないぞー!」
声を張り上げたラティに反応し、有翼人達が振り返る。
その顔を見てたじろぐ。
釣り上がった目に、耳まで裂けた口。
昨夜見た時は綺麗な女性達だと思ったけれど、今は人外じみた見た目に変化していた。おそらく、昨夜は美女に化けていたのだ。
”Gyaaaaa!!! GyaGyaGyaGya!!!!!!!!!!"
一匹の有翼人が鳴き出すと、他の二匹もけたたましく鳴く。
しかも、後から鳴いた二匹がパトリッセの肩と頭を掴み、飛び上がってしまう。ラティはあまり良くない刺激の仕方をしてしまったのだ。
だが、パトリッセを助けようにも、自分の方に向かってきた一匹が邪魔すぎて追いかけられない。
「邪魔だよ、どいて!」
"GyaGyaGyaGya!!!!!!!!!!"
彼女の翼から放たれる風は、大きな羽根なのを考慮しても、強すぎる。
魔法か何かの力でも使っているのだろうか?
徐々に後ろに押されていく……。
こう言ったら悪いが、結構強い。
「うぐぐ……こんな風、止めてやる!」
ラティはこの風の発生源である有翼人の羽根にランスをぶん投げるが、彼女はそれを受けることなく、やすやすとかわす。
しかしながら、避けた方向が悪かった。
突き出た看板の棒に羽根が引っかかり、派手に血飛沫を上げた。
「まずは一匹っと……」
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