第28話 討伐依頼と日常
南の漁村から帰ってきたレオは大量のお土産(魚)を手に屋敷へと戻った。使用人たちは珍しい魚に驚きながらもレオに感謝し、調理場へと帰っていく。
一方でレオはロビーにいたエレナを見て非常に驚いていた。なぜならエレナはいつものセクシーなローブ姿でもイブニングドレスでもなく、セルディナ中央学園の制服を身につけていたのだ。
「おかえりなさいませ、レオ様」
「エレナ……それって」
「はい、ディノアお母様のご提案でエレナも学園に通うことになりましたの。その……キルマージュ家の夫人候補として教養と人脈は必須だろうと。ふふふ、似合いますか?」
レオはまるで撃ち抜かれたみたいに固まった。
なぜならセルディナ中央学園の制服をきたエレナはとても美しく、年相応のかわいらしさがあるだけでなく、前世では彼女のいない学生生活を送っていたレオにとってはその姿に特別な何かが感じられたのだ。
「あぁ、とても可愛いと思う」
「まぁ、いつか。任務のない日は一緒に登校できたらいいなと思っておりますわ」
「そうだな。クラスは?」
「レオ様と同じにしていただきましたわ。ふふふ、一緒に授業を受けてランチを食べて……楽しみですわ」
くるっとスカートを揺らして回るエレナの可憐さにレオは心を打たれた。ついこの前まで「自分は娼婦だ」と暗い顔でベッドルームにいた彼女とはまるで違う。水を得た魚のように美しく泳ぎ回り笑顔で……。
レオの日常はガラッと変わるのだった。
***
簡単な討伐任務は非常に多く、レオたちは1日おきに討伐に向かうことが多かった。とは言っても、数の多さから馬や馬車を貸し出してもらい移動にはそこまで時間は掛からなかった。
その上、討伐する魔物はそこまで強くもなく、レオたちにとっては朝飯前だった。ソフィーナに関しては単体で動くことも多く、魔物のレベルによっては1日に3件もこなしてしまうほどだった。
「けど、勇者が選ばれた途端一気に任務が増えたわね」
ソフィーナが、戦略室のソファーで任務リストを捲りながら呟いた。スライムの討伐から、魔除けの魔法陣設置まで。任務は幅広い。
「俺、頑張るよ」
と言っているアルジャンは大きなクマを作りやつれている。それもそのはず、勇者であるアルジャンはほとんど毎日任務へと出ていた。
「アルジャン、あんまり気を張るなよ。もし、簡単な任務でも俺が必要なら呼んでくれ」
「大丈夫、訓練でも倒したことのある魔物なら1人でいけるし、3人で手分けした方が良いだろ?」
アルジャンはそういうがレオは正直納得が行かなかった。なぜなら、スライム如きなら勇者が出向かなくても騎士団数人でも討伐は可能だし、魔法陣の設置だって王宮の魔道士がいる。
それにも関わらず任務依頼書には「勇者パーティーメンバーの同行求む」と記されているのだ。
「レオ、それは君たちであることが重要なんだ」
重厚な声と鎧の音に振り返ると入り口に立っていたのは総司令ディオレスだった。3人は即座に敬礼をするが、彼が「楽にしなさい」と優しく言った。
「僕たちがあることが……ですか?」
レオの質問にディオレスが答える。
「勇者が、勇者のパーティーの一員であることに意味があるのだ。人々はそれをありがたく思い、勇者やその仲間が魔物を倒す姿に心を動かされるのだ。たとえそれがスライムの討伐であろうと。この世界の人々は毎日、毎日魔物に怯える日々を送っている。その個々を癒し、勇気づけるのもまた勇者の役目なのだ」
レオは自分の考えがまた幼かったことも傲慢だったことを恥じた。勇者であるアルジャンは一つでも多くの任務をどんなに辛くても受けようとしていたのに、レオは驕っていたのだ。
(これが俺では勇者が務まらない理由……か)
「レオ、君に任務の依頼だ」
「へっ?」
落ち込んでいたところ、総司令は一枚の風変わりな巻物をレオに寄越した。他の任務依頼書とは違い、その巻物は不可思議な布で、広げてみると見慣れない文字が記されている。
「エルフの都より、レオ・キルマージュのみへの単独依頼だ」
「かしこまりました」
(俺への単独依頼?)
「それから、第3王女殿下がお呼びだ。至急、第3宮殿へ出向くように」
「はっ!」
総司令が部屋を出ていくと3人は顔を見合わせた。
「レオ、すごいじゃない。エルフの都って人間は訪れることができない場所なのよ。それが招待されるなんて前代未聞だわ」
興奮気味のソフィーナに言われてレオもやっと実感が湧いてくる。記憶を辿ってみると「エルフの都」というのは、この大陸の人間なら誰しもが一度憧れたことのある幻想郷である。
美しく可憐なエルフたちが住まい、人間を寄せ付けず不思議な魔法と共に暮らしている。エルフたちが管理をする「魔法石の木」は大きな魔力を秘めていて……。
「レオ、頑張れよ」
「わかってる、アルジャンも死ぬなよ。俺が帰ってくるまで。ソフィーナ、アルジャンを頼んだ」
「了解。お土産、期待しているわよ」
レオは戦略室をあとにして急いで第3宮殿へと向かった。
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