第27話 最高のチームワーク


「おっと、危ない」

 アルジャンは華麗なバク宙でデビル・シースラグの攻撃を交わすと、細かい一撃を加えた。レオはアルジャンに加勢しつつ、ソフィーナの様子を確認する。

 ソフィーナは大きな海への穴へ魔力を注ぎ込み、次第に洞窟の中はひんやりと涼しくなっていく。

 彼女の放つ冷気がドライアイスの煙のように白くなって洞窟の地面を漂うのをレオは視認する。

「おら、こっちだ!」

 アルジャンが小石爆弾をバチバチとデビル・シースラグの顔に当てながら陽動し、レオはその間にデビル・シースラグの体を観察する。滑っとした表面には電流を帯びた体液を纏っている。アルジャンが飛ばす小石もその粘液が絡め取ってほとんどダメージは与えていないようだった。

「気をつけろ! 電撃水級の他にこいつの体液は酸性だ!」

 と言ったん瞬間にデビル・シースラグが口から酸の液を吐き出し、アルジャンの近くにあった岩をとかしてしまった。

(やはり……短期決戦にしないとまずい。氷を溶かされちまう)

「できたわ!」

 ソフィーナの掛け声を聞いたレオは剣を抜くと彼女の魔法を待ち剣が氷の魔力を宿したのを確認してから一気にデビル・シースラグに飛びかかった。

 まず首に一撃。剣が当たった部分が凍って大きくデビル・シースラグがのけぞった。

 一瞬だけ見えたデビル・シースラグの足……地面との接地部分のグロさにレオは顔を歪め、一旦後ろへと飛び退く。パキパキと足元の海水と粘液が凍り、棘のように鋭く尖る。

「うぉぉ!」

 何度も切り掛かるが決定打は与えられない。というのも凍った粘液を押しのけるようにデビル・シースラグの皮膚からは新しい粘液が溢れ出てくるからだ。

「アルジャン、いくぞ」

 今度はレオとアルジャンが同じ箇所を連続で攻撃をする。アルジャンが粘液を剥がし、レオが現れた皮膚に深く剣を突き刺した。

 すると、デビル・シースラグはもっと大きくのけぞって転がった。地上の魔物とは違って声帯がないようで鳴き声から判断はできなかったが、破れた皮膚から変な色の体液が漏れ出ているので傷が深いことは確認できる。

「援護する!」

 今度はソフィーナが風魔法の刃で追撃をする。無数の風の刃がデビル・シースラグを襲い、奴はゴロンと横倒しになる。

「おっしゃ! トドメだ!」

 アルジャンが飛び上がってもう一度体液が噴き出している傷口に剣を突き立てる。するとデビル・シースラグは一度後退し、海への穴を探すが完全に凍ってしまっていてなすすべがない。

「作戦成功だな……」

「レオ、そうね。あとはトドメを刺すだけ」

(美味しいところは俺が貪欲に頂きますか)

 レオはそんなふうに考えて、奴の弱点っぽい触手(目)に狙いを定めて飛び上がった。氷の刃を何度も叩きつけ、頭の上の2本の触手を切り落とすと、デビル・シースラグは完全に倒れ込んで動かなくなった。

「よっしゃ!」

「レオ、ナイスだ……って、なんかおかしくないか?」

 アルジャンの表情が笑顔から不安そうな顔になり、レオの後ろに倒れいているデビル・シースラグの死骸に注がれる。

「レオ逃げましょう!」

 今度はソフィーナが悲鳴に近い声を上げると脱兎のごとく洞窟の出口に向かって走り出す。

 レオが振り返ってみると、デビル・シースラグの死骸が異様なまでに膨れていた。まるで爆弾ゲームの風船のようにだ。無論、奴の体の中には酸性の体液が詰まっている。それがこの逃げ場のない洞窟内で飛び散れば……。

「アルジャン、走れ!!!」

 レオはアルジャンに声をかける。するとアルジャンはレオを先に行かせるとぴたりと立ち止まって、詠唱を始めた。

「アルジャン何してる?!」

「レオたちは先に逃げて! このまま全員で逃げたら酸が洞窟の外まで飛び散って村に被害が出るかもしれないから……」

 アルジャンの足元には土魔法を展開する黄色い魔法陣が出現し、それを見てレオは彼のやりたいことを理解して足を止める。

「レオ、アルジャン何をしてるの!」

 レオはアルジャンの後ろで風魔法を唱え、万が一の被害を減らすべく全力で風をデビル・シースラグの方へと吹かせる。

 ブクブクと膨れ上がったデビル・シースラグの死骸は、大きな音を立てて破裂した。その瞬間、アルジャンの土魔法が彼とデビル・シースラグの間に大きな土壁を作り、洞窟を完全に塞いだのだった。



***



「勇者様、カンパーイ!」


 一夜明け、漁村では宴が開かれていた。デビル・シースラグのいなくなった漁場での漁は大漁。さまざまな魚料理が並び、村民たちも活気を取り戻している。

 元日本人のレオとしては非常にそそられるような料理ばかりだったが、万が一のこともあるので口をつけず、村民たちと踊るアルジャンを遠目に眺めていた。


「勇者様! 勇者様!」


 楽しそうなアルジャンと彼を讃える村民たち。アルジャンがあそこで土魔法を唱えたことで漁場に大量の酸が流れるのを防いだわけで、レオは彼が担がれていることに嫉妬することはなかった。

 水筒に入った水を飲み、空いた腹を誤魔化す。


「嫉妬しちゃうわ。だって氷の魔法で逃げ道を塞いだのは私だし、それを考案したのはレオでしょう?」

 ソフィーナがレオの隣に座ると2人分の酒とおつまみをテーブルの上に置いた。

「俺は……」

「大丈夫、毒や薬なんて入っちゃいないわ。私が作るところから見ていたんですもの」

 美味しそうな焼き魚と発泡酒。

「ありがとう」

「勇者様ばっかり注目されてずるいって思ってた。けど、今日の2人を見てたらそんなふうに思わなかった。自分を犠牲にしてでも被害を最小限に抑えようとするアルジャンも、アルジャンに怪我をさせまいとするレオも。最高に格好良かった」

 カンとレオのグラスに乾杯をしてソフィーナは酒を飲んだ。

「俺の役目は、勇者を守ることだからさ」

 そんなふうに格好をつけて、レオは美味しい料理を食べ始めた。


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