第25話 南の漁村にて


 新しい任務依頼が入ったと伝令鳩が飛んできたのは翌日の昼過ぎのことだった。レオはエレナにキスをして家を出ると、集合場所である城の戦略室へと足を運んだ。


「おはよ〜、レオ」

「おはよう」


 レオより先についていた2人に挨拶をしていたら総司令が部屋へと入ってくる。


「3人とも、新しい任務だ。南にある漁村で近くで大きな魔物を確認されたとのこと。今回は簡単な討伐任務になる」


「はい、総司令」



***


 道中、魔物たちを薙ぎ倒しながら歩く姿はさながら勇者パーティーそのものだ。戦闘のアルジャンが魔物を引きつけ、俺が斬撃(また打撃)後方からはソフィーナが魔法で追撃をする。

 一際大きなスライムを倒した後、ソフィーナがアルジャンを不思議そうに眺めながら言った。

「でも、アルジャンをウェルホークから運ぶまではこんなに魔物は襲ってこなかったわよね?」

「確かに……」

 勇者の勲章についている魔法石には不思議な力がある。魔物を引き寄せる力だが、持ち主の意識がなければ働かない。そんな仮説がレオの中で出来上がった。

「じゃあ、逆に考えたら俺の意識がなければ魔物に襲われないってこと?」

「それは悪魔的発想だな」

 レオが苦笑いするとすかさずソフィーナが

「疲労してきた時は、アルジャンに睡眠魔法をかけますか、なーんてね」

 と茶化す。

 ソフィーナが加入したことでだいぶパーティーの雰囲気が柔らかになったのでレオも自然と笑顔が増える。レオが衛生騎士、いわゆる回復係もかねているのでパーティーメンバーとしては3人が最良の形なのだ。

「そういえば、2人に一つだけお願いがあるんだけど」

「何? レオ」

 レオは前回の任務で思うところがあった。

「これから先、初めて行った村や街でもらったものを身につけたり、食べたり飲んだりは基本的にしないようにしよう。たとえ相手が子供でも……だ」

 しかし、ソフィーナは賛同できないとばかりに首を振った。

「あのね、戦場では現地の人たちの協力が必須なの。前線部隊にいたときは積極的に現地の人たちとのコミュニケーションをとっていたわ。同じ衣装を身につけたり同じものを食べたりしてね。そうして受け入れてもらってそこから始まるのよ」

「でも、俺もレオもお茶に入った薬で眠らされて牢屋に入れられてたし、ソフィーナだって操られた原因はネックレスをつけたことだろ? 俺はレオに賛成だな」

 アルジャンが言うように、レオたちが前回ピンチに陥った原因は、いたいけな少女を信用したことである。

(けれど、ソフィーナの言うことも一理ある。現地の人たちと馴染めなくて必要な情報がもらえないこともまずい)

「なら、レオだけはそうするのはどうかしら? あなたは回復薬も兼ねているのだし」

「そうだな、レオだったら俺たち2人がどうにかなってもなんとかできるだろうし!」

 アルジャンにそういわれるとなんだかレオはムカッとしたが、彼自身もそれが最善策かもしれないと納得した。

「期待するなよ、ソフィーナほど魔法は使えないからな」

「そういえば、睡眠魔法と麻痺魔法くらい覚えておいて損はないかも。これ、読んでみて」

 と彼女が荷物から取り出した魔導書を手にすると、レオは不思議と睡眠魔法と麻痺魔法を会得した。

「すげぇ、俺もやってみよう」

 とアルジャンが魔導書に触れたものの、彼は首を傾げるばかりで特に変化はない。

「あら、アルジャンには適正がなかったようね。残念」

「え〜、残念だけど。レオができるならいいか」

 明るい彼は嫉妬などせずにレオの背中をポンポンと叩く。こういう彼をみてレオは「叶わないな」と感じるのだった。



***



 南の漁村にたどり着くと、出迎えもなく貧困に喘いだ様子の男にアルジャンが話しかけた。

「あの、この村は……」

「あぁ、お兄さん。もうこの村はお終いだ。早く逃げなさーれ。海の魔物が近くの洞窟に住み着いて漁ができなくなってしまってね」

 男が話し出すといくつかある住居から、人が顔をだして一行を覗く。

「俺たちは魔物を退治に来ました」

 レオがそういうと男は3人を上から下まで凝視してから「勇者様ご一行ですか?」と大声をあげた。

「はい、そうです。ですから魔物の居場所を教えてもらえると……」

「勇者様だ! 勇者様が来たぞ!」


 腕を引っ張られ、いつのまにか出てきていた村娘に背中を押されて村の中へと押しやられる。

「ちょっ、押さないで」

「勇者様だ! やっと、やっと救われるぞ!」


 レオたちはそのまま村の中で一番大きな家にひきづり込まれ、荒めの歓迎を受けた後、魔物についての詳細を聞くこととなった。



 

 




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