第24話 次の任務前に


「アルジャン、起きたか」

 治療院の入院病棟に行くとアルジャンが帰り支度をしていた。彼はレオを見つけると目を輝かせ駆け寄って抱きついた。

「おいおい、やめろって」

「レオ、レオが助けてくれたんだよな。ありがとう。信じてたよ」

「馬鹿野郎、なんで逃げなかったんだ」

 アルジャンを自分から引き剥がし、強い口調でいった。

「そりゃ、全員を守りたかったし……何よりもレオならかならず洞窟の奥で魔物をやっつけてくれるって信じてたから」

「馬鹿野郎……」

「そうだ、レオ。母さんのことありがとう。今別の部屋に入院してるらしくてさ。もう少ししたら退院できるんだって。レオのお母さんに今度お礼をって言ってたよ」

「あぁわかったよ」

 アルジャンを見るたびに彼には叶わないと思うレオだったが、もうそこに嫉妬の心はなかった。むしろ、あまりにも彼が自己犠牲の精神が強すぎるあまりレオは彼を守ることに使命感を感じつつあった。

「ソフィーナ嬢は? 無事だった?」

「あぁ、今日はこのあと訓練に行くってさ。心強い仲間だよ」

「俺も、もっと強くならなきゃだな。レオみたいにもっと頭を使わないとって思った。心配かけてごめん。本当に」

「すぐに次の任務だ、今日は帰るがまた明日な」


***


「レオ様!」

「レオ!」

 屋敷に戻るとエレナとディノアに出迎えられ、食堂にはご馳走が並びエレナはずっとレオの隣から離れなかった。

「任務成功おめでとう」

「母上、これから何度も何度も任務に行くんです。大袈裟すぎますよ」

「レオ、どれだけ母さんやエレナが心配したと思っているの? 初めての任務が一番大事なのよ」

「レオ様、エレナもディノアお母様も信じておりました。無事に帰ってきてくださって本当に……よかった」

「みんな、心配かけてすまなかった。次はもっと」

「そんなことより、レオ、エレナ」

 ディノアが良い雰囲気の2人を遮り、続ける。

「早く。早く、後継ぎをよろしくね」

 2人はぶわっと真っ赤になる。よく見れば食卓に並んでいる食事は精のつくものばかり。どうやらディノアは息子の任務達成を祝うと同時に「早く子宝を」というプレッシャーもかけていたらしい。

「さ、エレナ様。お食事もそこそこにご準備ですよ!」

 セイディがエレナをベッドルームへと連れ去り、食堂にはレオとディノアだけが残される。

「レオ、あなたの役目はキルマージュ家の繁栄。エレナだけでなく他にも夫人候補を用意しなくては思っていたの」

「母上、一つ聞いても良いでしょうか」

「何かしら?」

「僕の兄弟がいないのはなぜでしょうか」

「それはね、私のせいなの。私の実家が王家の遠縁だったこともあって、お父様は第2夫人ととりにくくなってしまったのよ。まぁ、お父様が戦い一筋だったこともそうだけれど」

「だから、僕が頑張らなくては……ですね」

「そうよ。ですから、エレナには頑張ってもらわないと。あの子はいつも遠慮しがちだから貴方が引っ張ってあげるのですよ」

 転生前は彼女すらできたことがなかったレオがもう子供を作ることを求められている。恋愛をすっ飛ばしてそう言うことになるとは彼も驚きだった。

「エレナと話しつつ、ですね」

「えぇ、もちろん。それに、他の夫人候補も集めているのよ。貴方も旅の途中で見つけたら交渉して頂戴。この屋敷にはエレナを、他の子たちは別邸に住んでもらうことにしようかしら」

 レオはハーレムというと良い印象を持っていたがここまで周りが乗り気だと引退した競馬馬になったような気分になった。ただ、世界で初めての「回復魔法」に目覚めた男の子孫は国にとっても重要な要素なのだ。

「そして、使命を遂げたらアルベルト家と正式に婚約もしないとね」

 なんだか楽しそうなディノアを見つつ、レオはさまざまな人から与えられる使命や期待を感じてフツフツとやる気がみなぎってくるのを感じた。


 入浴を終えて、寝室に戻ると既にエレナがベッドに座っていた。いつもより少しだけ少ない蝋燭の灯りと、甘い花のアロマがぐっとレオを滾らせた。

 エレナは銀色の髪を珍しくまとめていて、すっと首筋が顔を覗かせる白いシルクのシミーズを身につけていた。シミーズは丈が短くチラチラとガーターベルトが覗きなんとも言えないセクシーさだった。

「待たせてすまない」

「レオ様、これからきっと多くのご令嬢が夫人候補としていらっしゃるってディノアお母様から伺いました」

 そっとレオに寄り添ってエレナが言った。そのまま熱っぽい視線を上目遣いでレオに向ける。

「けれど、ここに住むのはエレナだとも言っていたさ。心配しなくていい」

「いいえ、エレナは嬉しいのです。だって、昨夜レオ様を待っている間、すごく心細かったのです。けれど、もしも同じようにレオ様を愛する人が一緒にいてくれたら……なんて」

(確かに、一夫多妻が普通の感覚ならそうなのかもしれないな)

 エレナはそんなことをいいつつレオの服のボタンを外してベッドにゆっくりと押し倒す。

 エレナはレオの上に跨ると束ねていた髪紐をほどき、銀色の髪を下ろすとそっと微笑んだ。

「けれど、こうしてレオ様を独り占めできないのは少し寂しいですわ」


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