第16話 二つの役目
「アルジャン・フレイベ。勇者の書に従い、貴殿を123代目勇者として任命する」
大歓声の中、アルジャンは勇者の勲章を装備させてもらっていた。勇者の勲章は、白いリボン、虹色の魔法石をあしらった豪華なものだ。七色に輝く魔法石は魔物の注目を集め、戦場で最も勇敢に活躍する勇者を表すとされている。
それを後ろから眺めるレオ。表情こそ笑顔ではないが、そこから憎しみや嫉妬は消え去っていた。親族席に座るエレナとディノア、それから王族席に座っているシノアからの視線を感じてレオはきゅっと気合を入れ直す。
「次に、レオ・キルマージュ。前へ」
総司令であるディオレスの掛け声に敬礼し、レオは陛下の前へと歩み出る。先ほど、庭園で会った時とは違い威厳のあるセルディナ4世は騎士の勲章を手に取る。
それはレオにとっては見慣れた、深い赤のリボンに黒々とした魔法石があしらわれた「騎士」の勲章だった。
ディオレスがひざまづくと、赤いクッションの上に置かれた勲章をセルディナ4世へと掲げた。
「レオ・キルマージュ。数々の推薦と貴殿の実力、勇者との信頼関係を持って勇者パーティーの騎士に任命する」
「この上なき幸せでございます」
敬礼をしたレオの右胸にセルディナ4世が勲章を取り付けた。セルディナ4世にとっては妻の形見である「番犬の証」の隣に。
レオが下がろうとすると、セルディナ4世は「待ちなさい」と一声。異例の事態に沸いていた会場が静まる。
「ディオレス」
「はっ」
ディオレスは一度、他の勲章が置いてある場所へと戻ると別のものを持ってセルディナ4世の元へと戻ってきた。
レオはあまりの事態に目を丸くする。そこには青く優しい光をともした魔法石をあしらう勲章が置かれていたのだ。
「レオ・キルマージュ。貴殿に目覚めた治癒の魔力、貴殿の持つ深い慈愛の精神をもとに、勇者パーティーの衛生騎士に任命する」
大歓声、親族席は全員立ち上がり拍手をし王族席でもシノアが飛び上がって歓声を送った。この長い歴史の中で初めてのことである。
「ワシは、3つ目のそれを一番大事にしてほしいがな」
お茶目にウインクをしたセルディナ4世に再び敬礼をしてレオは席に戻った。しばらく、歓声がやむまで時間がかかり静かになってからディオレスが口を開いた。
「魔道士に任命するソフィーナ・アルベルティは、前線任務参加中のため呼び上げのみでございます」
「では、ソフィーナ・アルベルティ。貴殿は類まれなる魔法の才能と前線基地での活躍を評価し、貴殿を勇者パーティーの魔道士に任命する」
レオとアルジャンは顔を見合わせた。やはり、3人目のメンバーはあのソフィーナ嬢だったと目配せをする。
「それでは、任命式は以上。来賓の皆様方は城内の舞踏会宮殿にてご移動ください」
会場に来ていた貴族たちがぞろぞろと第1宮殿の広間を出ていく。
「レオ様」
エレナとディノアに呼ばれて親族席の方へと向かう二人。アルジャンも緊張がほぐれたのか顔が緩んでいる。
「レオもアルジャン様も立派でしたよ。あぁもう」
ディノアが涙を拭うとなぜだかアルジャンがもらい泣きをして、レオとエレナは顔を見合わせて笑った。
一方で、王族席ではすぐに帰ってしまった第1・第2王女とは違って柵を乗り越えてレオたちのもとへ行こうとするシノアが近衛兵たちに制止されている。
「ちょっと、離しなさい。マルセイ」
「シノア様、いけませんっ、あぁっレックス様」
レオの元へと飛び出したレックスはワンワンとけたたましく吠える。たまらずレオは彼を抱え上げる。
「レックス、マルセイさんを困らせちゃダメだろう?」
レックスを抱え、王族席の方へと行くとシノアが嬉しそうに微笑みマルセイは申し訳なさそうに肩を落とした。
「とても誇らしかったわ。まさか、史上初の二役だなんて。さすがは我が番犬ね」
レックスを受け取るとシノアは誇らしげに顎を上げて眉を動かした。
「先ほど、シノア様は新しく設立される魔法石研究所での特別研究を許可されてご機嫌なのです」
マルセイがこっそりとレオに耳打ちをする。レオは「なるほど」と呟いた。
「ところで、あの子は? ご挨拶がしたいわ」
シノアはエレナの方を見ながら言った。
「あぁ、彼女は僕の婚約者です」
正しくは妾候補である公娼だが、レオは単純に言い間違えた。
「そう……」
「エレナ」
レオはエレナを呼び、シノアに紹介をする。
「シノア王女殿下、彼女は僕の婚約者。エレナ・シャンディール子爵令嬢です」
「シノア王女殿下、お初にお目にかかります」
シノアはエレナを上から下までじろっと眺めると、少し悔しそうに口を尖らせる。「よろしく。シノアよ。それからこっちはレックス。お友達になってくれるかしら?」
レックスを顔の前に持ってきて恥ずかしそうにシノアは言った。エレナは「光栄ですわ」と返事をする。
「さぁ、舞踏会場に移動しましょうか。あまり皆を待たせてもいけないですし」
レオがそわそわするマルセイを気遣ってその場の会話を終わらせると、エレナをエスコートするため手を取って歩いていく。
シノアがその姿を羨ましそうに眺めているとマルセイは
「シノア様にはまだ早いですよ」
と言い、シノアは顔を真っ赤にする。
「べ、別に番犬を好きだなんて言ってないわよ」
「今自分でおっしゃってますよ、シノア様」
「マルセイのばかっ」
「いてて、シノア様⁈」
シノアはレオの後ろ姿をじっと見つめる。まだ幼いシノアには大きく頼もしく、そして手の届かない存在に映った。
「別に、初恋だなんて言ってないわよ」
「ですから、今自分でおしゃってますよシノア様」
シノアは顔を真っ赤にしてマルセイの胸をポカポカと叩いた。
「マルセイのばかばかばかっ!」
こうして、無事。レオは自身の「2番手の呪い」と折り合いをつけて勇者一行の一員に任命されたのだった。
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