第13話 勇者と親友


 学園に行くと、勇者の大きな垂れ幕がかかり勇者フィーバー真っ最中だ。レオのクラスの前には人だかりができていた。

「ちょっと、失礼」

 御令嬢たちの間を縫って教室に入ったレオに、御令嬢たちは「レオ様よ」と小さな悲鳴をあげる。

 それに気がついたアルジャンは犬のようにレオに駆け寄るとペシペシとレオの体を触って安心したようにため息を着いた。

「レオ、昨日一人で魔物と戦ったって……授業にも戻らなかったし。俺心配で」

 レオがじっとアルジャンを見つめると、アルジャンは気まずそうに俯いた。

「おはよう、アルジャン」

 少しだけ不器用に、それでもできるだけいつも通りにレオは言った。アルジャンはぶっきらぼうなその挨拶に目を輝かせる。

「レオ! おはよう!」

「おい、くっつくなって。暑い」

「レオ、聞いたぞ! 昨日王女様の犬を助けたんだって? そんで、王宮で晩餐に参加したんだろ? すごいよな、レオは。ほんっとすごい」

 アルジャンは嬉しそうにレオにまとわりつき、その勢いにレオはつい笑ってしまう。

「アルジャン、一つお前に言っておきたいことがあるんだ」

「レオ?」

「もう2度と、俺に対して申し訳ないみたいな顔はしないでくれ。俺が惨めになる」

 アルジャンはクッと真剣な表情になり深く頷いた。それを見てレオも安心する。

「あぁ、わかったよ」

「俺は、お前が勇者になったとしても負ける気は微塵もない。けど、俺たちの目的は同じだろ? だから一緒に……」

「もちろんだよ! レオ! ありがとう」

 にへへと笑ったアルジャンにレオは父の言葉を思いだした。

(優しさ……か)

「さて、俺は勇者パーティーの一向として参加要請を受けたわけだが……そのほかのメンバーについてアルジャン、聞いたか?」

 レオたちはいつもの席につくと、コソコソと会議を始める。例年、勇者のパーティーは勇者・騎士・魔術師・衛生騎士など何人かで構成されていた。

「俺は、一応衛生騎士っていう括りになるのか……」

「けど、これは謙遜でもなんでもなく剣術も魔術も俺よりもレオの方が上だからどちらかと言えば、俺はサポート型の勇者に当たるのかも」

「だとすると……魔術師か」

 レオとアルジャンの頭には一人の女性が思い浮かんだ。

「ソフィーナ嬢か」

「レオ、俺も同じこと思ってた」

 ソフィーナ・アルベルティは優秀な女騎士である。彼女は優秀とされる大きな理由は一つ。彼女が4大魔法を全て上級まで習得していることだ。

 魔道騎士部隊の中でも精鋭として前線に派遣されている彼女の功績はアルジャンやレオよりも大きい。年頃も同じくらいであることから、彼女が選ばれる可能性が高いだろう。

「レオ、話したことある?」

「いや、二人きりで話したことは……」

「だよな……なんていうか、こう殺気がすごくて。大丈夫かなぁ」

「アルジャン、魔物を倒すことや困りごとを解決するために俺は力や知識を貸してやれるが、流石にパーティーをまとめるのはお前が頑張ってくれよ」

 不安そうなアルジャンを見ているとレオまで不安になってきて彼はため息を着いた。けれど、アルジャンの立場に立ってみれば、いきなりまとめ役になって主導権を握って世界を救えなんて無理難題を押し付けられているのだ。レオは彼に少しだけ同情した。

「まぁ、なんとかなるだろ」

「レオ〜」

「逃げたってしょうがないだろ。まだ俺たちは出発地点にも立ってないんだぜ」

「そ、そうだよな」

「とりあえず、今夜の任命式までは俺たちは学園の生徒だからな」

「はぁ、ネイト先生の講義もあるし……頑張らないと」


 無事、アルジャンとの仲を戻したレオは任命式までにさまざまな記憶について辿っていくのだった。


***


「エレナ……すごく、その綺麗だな」

 任命式の前、自宅にて着飾ったエレナと対面したレオはその美しさに驚いていた。エレナは下級貴族から公娼、ゆくゆくは妾としてキルマージュ家にやってきた令嬢で、レオは彼女と毎晩共にしている。

 元々、化粧などしなくても美しい彼女が一段と清楚で煌びやかに着飾り、銀色の髪がシルクのように美しく滑らかだ。

「レオ様……お恥ずかしい」

 彼女の白い肌がぽっと桃色に染まるが、すぐにエレナは口元を抑える。

「どうした?」

「いえ、コルセットをこんなに締めるのは久々で」

 レオはそっとエレナの体を支えると心配そうに手を取る。

「まだ、懐妊はしていないのを確認済みよ。レオ」

 ディノアが慌ただしくやってくるとエレナのドレスの裾を丁寧に直す。エレナの髪についているエメラルドの髪飾りはディノアのものであることに気がついた。

「けれどすごく苦しそうだ。母上、少しゆるめてやってくれませんか」

「レオ……、それは彼女に失礼ですよ。王宮に招かれているのに気を抜くなど」

「レオ様、エレナは大丈夫です」

 弱々しく笑うエレナを心配しつつ、レオには女性の事情はよくわからないのでそれ以上反抗することをやめた。

「それにしても、本当に綺麗で……」

「まぁ、レオ様。ディノアお母様が全て仕立てて下さったのです。この髪飾りも……キルマージュ家に伝わるものだと」

 銀色にエメラルドをあしらった美しい髪飾りをそっとエレナが撫でる。

「ほら、馬車が参りましたよ。早くお乗りなさい」



 

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