第12話 転生者と第3王女


「レオ・キルマージュ殿。こちらへ」

 急いで身支度を整えたレオは王宮の晩餐に招待をされていた。シノア第3王女の住まう第3宮殿は豪勢というよりは古き良き宮殿と言ったイメージの強い建物だった。石造りの宮殿はまるで前世で見た古い欧州の博物館のようである。

「お父上はすでにいらしております」

 案内された宮殿内の食堂には、シノア王女と父ディオレス、それから何人かの騎士団幹部がすでに席についていた。遅くなった胸を謝罪しレオも用意された席に着いた。


 しばらくすると、シノア第3王女が若草色のドレス姿で現れて華麗に礼をする。レオを含め、その場にいた一同が最敬礼のポーズをとって彼女の許しが出るまでじっと待つ。

「顔を上げて」

 ふわっとした不思議な声が響くと全員が最敬礼をやめて彼女の方を向く。すっかり綺麗になった茶色い子犬を抱えたシノア王女が微笑んでいた。

「レオ・キルマージュ殿、この度は私の大事な愛犬、レックスを助けていただきありがとうございます」

 レックスと呼ばれた犬はレオの前世でいうドーベルマンのような犬種の子犬で、やけに手足が太いところを見るともっと大きくなりそうだった。

「王女殿下を危険に晒してしまったこと、また僕は大変な無礼を……」

「良いのです。私と貴方が顔を合わせるのは本日が初めてだったのですよ。わからなくて当然ですわ」

 学園で出会った時よりガラッと印象の変わったシノア王女に驚きながらレオは謙遜した。

「それに、ここにいる第2宮殿の近衛兵たちはレックスの行方をまともに探してくださらなかったのだもの」

 ピリリと空気が緊張する。レオは彼女が王族としては少し異端な人間なのだと察した。

「さて、レオ・キルマージュ殿」

「シノア第3王女殿下、レオで構いません」

「レオ、こちらを」

 そう言って、シノアはレオに小さな小箱を手渡した。王家の紋章が彫刻されたずっしりと思い白い小箱だ。

「ありがとうございます」

「開けてみて」

「はい……」

(指輪……が入っていそうな小箱だな)

 レオは受け取った小箱を開いてみると、そこには魔法石をあしらったブローチが輝いていた。銀縁のシンプルな枠に緋色の魔法石が嵌められている。

「この緋色の魔法石は強い魔力を秘めているのですよ。貴方のような方が持っている方が良いと思って」

 その魔法石を見てレオの近くに座っていた騎士団の幹部たちがザワザワと騒ぎ始める。

 レオの耳にももちろんその内容が入ってきた。


「あれって、第3王女が勇者様にお渡しするはずだったんじゃ?」

「いや、俺はソフィーナ嬢へのものだと聞いたぞ」

「まさか、犬っころのために……?」


「ありがたく頂戴いたします」

 レオが最敬礼をすると、シノアはブローチを彼の手から取るとそっとレオの胸元につけた。まだ、騎士としては勲章の一つもない彼にとって初めての輝きである。

「あら、よくお似合いね。これは貴方が私の番犬である証よ。ふふふ、守ってもらったのは私の番犬見習いだけれどね。レックス、お兄ちゃんにお礼は?」

 子犬がワンッと元気よく吠えると一気に会場の空気が和んだ。


 この一晩で、レオ・キルマージュが第3王女シノア・セルディナの番犬の証を得たとの情報が国中に広まった。



***


「でぃ、でぃ、ディノア奥様〜!」


 翌朝、食事を摂っているとメイドのセイディが慌ただしく食堂へと入ってきた。


「セイディ、朝から騒がしいですよ。何かしら」

「こ、これが……」

 セイディがディノアに手渡したのはやけに豪勢な封筒だった。赤い蝋封をみてディノアは目を丸くする。

「まさか……、陛下から」

 その言葉を聞いて、レオもエレナも驚いて目を丸くする。ディノアは二人が近くへくるのを待ってからゆっくりと封を開いた。中には1枚の便箋、送り主は国王であるセルディナ4世からであった。

「レオ、貴方へよ」

「はい、母上」

 便箋を受け取ってレオは内容を読み上げる。まずは、昨日のシノア王女の件の謝意から始まり、

「勇者パーティーに参加せよ……」

 レオは思わず口を手で覆って、腰を抜かしそうな程驚いてしまった。

(まさか、こんなにも早く勇者のパーティーの一員として選ばれることになるなんて……)

「レオ様、おめでとうございます」

 エレナは半分泣きながら何度も何度も嬉しそうにそう言った。それに釣られたのかセイディもディノアもハンカチで涙を拭いながらレオを激励する。

「今夜、王の間にて勇者パーティーの任命式を執り行うこととする」

 最後まで国王陛下の手紙を読み終えると一気に食堂は慌ただしくなる。

「全く、ディオレスったらどうしてこれを伝えてくれなかったのかしら。セイディ、今日の式典に向けてエレナにとびっきりのドレスと化粧師を呼んで頂戴。エレナ、今日はもう飲食はダメよ。コルセットが閉まらなくなるでしょう。レオ、貴方は学園の講義が終わったらすぐに帰ってらっしゃい。じいや、馬車と馬をピカピカにして」

「はい、ディノア奥様。ささ、エレナ様はこちらへ。レオ様、いってらっしゃいませ」

 セイディに半ば追い出されるような形で屋敷を出ると、レオは学園へと向かった。



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