第10話 転生者と混合獣
混合獣は獰猛なネコ科の猛獣を思わせる頭をぐぉぉんと大きく吠えた。頭は黄色と黒の縞模様、体は熊のように大きく丸い。鋭い爪は地面に突き刺さり尻尾の2匹の蛇おこちらに牙を向けている。
大きさは立ち上がればレオと同等くらいで混合獣にしてはそこそこの大きさになるだろう。
「混合獣の中でも飛ばないだけマシ……か」
戦いの基本は「敵を知る」ことだ。じっと敵を観察して攻撃の特性と弱点を探ることである。レオは記憶をたどり魔物学でのことを思い出しながら目の前にいる混合獣のことを考えた。
「獣型、火に弱い」
まずは1発、火の魔法で相手と自分の間に炎の線を引いた。すると、毛皮に火が燃え移るのを嫌がって混合獣は後ろに飛び退く。とはいえ、荒地であるこの場所で炎はすぐに消えてしまう。
怒り狂った混合獣がクマの体特有のタックル攻撃をすべくレオに向かって走り出し、レオはカウンター攻撃をしようと剣を構えた。
体がぶつかる寸前に横に避けて、混合獣の横腹を切り付けるも分厚い毛皮で剣が通らない。
「剣を通すなら……そこか」
混合獣のタックルを食らった大岩は真っ二つに割れて大きな粉塵を飛ばす。そのままこちらに振り返って、更なるタックルをすべく足を踏み鳴らした。
混合獣にはおおよそ3〜4つの魔物が生息している。そのため弱点は少なく、戦闘も攻略法が少ないのだ。けれど、その一つが死んだとき、急激な弱体化を起こす。
レオは目の前にいる混合獣の弱点に気がついていた。
(別にここは城の外だし、魔物1匹倒したとて何もかわらないけど。今の俺はちょっとむしゃくしゃしてるんだ)
レオは一気に混合獣との距離を詰めて飛びかかるとそのまま混合獣を飛び越えて、後ろへと着地した。
そして、混合獣がレオの方へ振り向く前に尻尾の蛇を分断する。毛皮に覆われていない唯一の尻尾は幸い強靭な鱗ではなく訓練用の剣でも十分に切断することができた。
尻尾の2匹の蛇が絶命し、混合獣はぎゃぁを大きな声を上げてのたうち回る。そこにレオは火の魔法で追撃をした。毛皮に火が燃え移り、しばらくして混合獣が絶命すると黒い煙がゆっくりと空へと流れていく。
*** その頃 城では ***
「シノア様? どうなされたのですか!」
近衛兵が大きな声を出すと、宮殿のロビーフロアにいた全員が泥だらけになり愛犬を抱えたシノア第3王女に注目した。
彼女は裸足だったし、制服はすすや泥まみれ。その上、焦った様子で涙を流した痕跡もあったのだ。
これは一大事と近衛兵や使用人たちが彼女の周りに集まった。
「シノア様、レックス様がお戻りになられたのですか? 昨晩から行方不明だった……」
レックスと呼ばれたのは小さな子犬だ。シノアの腕の中でブンブンと元気に尻尾を振っている。
「お願い、死んでしまうの! 助けて!」
「シノア様、レックスは元気なようですが……」
近衛兵はレックスをシノアの腕から抱き上げると掲げるように持ち上げて、ぐるりと回してみたり、ひっくり返したりして確認する。しかし、茶色い子犬は嬉しそうに舌を出して尻尾を振るばかりでどこにも異常はない。
「あれ……レックス様。シノア様から送られた魔法石の首輪はどこに?」
レックスは隣国の商人が犬好きの王女のためにと献上してきた軍用犬の子犬だ。王女の番犬にと飼育を任されてはいたがあまりにも悪戯好きで脱走癖があり、使用人たちは頭を悩ませている。
ただ、シノア王女はレックスをかなり可愛がっており、高級な魔法石を首輪に仕立ててレックスにプレゼントするほどだ。けれど、怪我をしていないのに「死んでしまう」と泣いているのはどうしてだろう? とその場にいる誰もが首を捻った。
「レオ様が……魔物に!」
「レオ様?」
シノアの必死の形相に近衛兵たちは緊張感を覚え顔を見合わせた。
「シノア様、どういうことなのです?」
シノアは涙を拭きながら事の経緯を近衛兵たちに伝える。レックスの魔法石と自分の指輪の魔法石をリンクさせて追跡したこと、レックスは城外にいたこと。
レックスを見つけたときには混合獣に襲われていて怪我を負っていた事。靴は混合獣を追い払うために投げてしまった事。そして、中央学園で話題になっている「治癒魔法」を使用する生徒に助けを求めた事。
「だから、レオ様は私を逃すために1人で魔物に! 私、混合獣を追い払えたと思ったの。けど、けど……」
「シノア様、すぐに騎士団長にお伝えしてきます。治癒魔法が使えるレオ様……キルマージュ総司令のご子息だ! 急ぎ、お伝えしろ!」
慌ただしく使用人や近衛兵たちが動き出した。レオ・キルマージュは、王宮でも話題になっている「逸材」である。
王国の前勇者パーティーの右腕として活躍し、現在はセルディナ王国騎士団、魔術騎士団長および総司令を務める父ディオレスと王家の血筋を引く母ディノアの間に生まれた一人息子である。
そしてレオ・キルマージュは「回復魔法」に目覚めた歴史上ただ一人の人物なのだ。王女の話が本当であるとすれば大変な事態だと城中にその波紋が広がっていった。
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