5年後の未来も、あなたと共に

 とっくに沈んでしまった夕日を、いつまでも眺めていた。

 夜空にまたたく星々が、俺たちの姿を優しく照らしてくれる。


 コスモスの咲く丘の上で、二人、肩を寄せ合って座っていた。

 この時が、一瞬のようにも、永遠のようにも感じる。


 頬をくすぐる、絹のように細い髪。

 肩に乗る、柔らく温かな頬。

 ともに前を向く、長いまつ毛。

 そして、手に触れる、細くて冷たい指。


 許されない関係だとも思う。

 

 本当は、ずっと秘めていたかった想いだった。

 けれど、あなたに触れて、隠したままではいられなかった。

 

 肩から伝わるゆっくりとした鼓動に、あなたの口から漏れる吐息に、耳を澄ませる。

 鼻から息を吸い込み、静かに、深く、この雰囲気を堪能する。

 

 冷えた空気に、脳が痺れるようだった。

 穏やかに周囲に舞う白い息だけが、俺たちを歓迎するように浮かんでは消えていく。

 

 いつまでもこうして、ここにいたいと願う。

 やっと掴んだこの光を、決して離さないと。


 ……ただ、それは、叶わない願いだった。


「5年後の俺たちはさ、どうなっていると思う?」


 何気なく放たれた言葉だった。

 それは、俺たちを取り囲む世界が何て美しいのかと、とろけていた時だった。

 

「……変わらないよ」


 心の底から、そう思っていた。

 

 俺の言葉に、ふと、肩に乗っていた頭が動く。

 星空を受けて、宝石のように輝く瞳に見つめられて、ゴクリと喉が鳴った。


 ああ、あなたへは、なおも届かないのか……。

 そう、察した瞬間だった。

 

 ……あなたは、特別だ。

 俺にとっても……周りの人間にとっても。


 その瞳に囚われて、全てをあなたのために投げ出したくなる。

 けれど、その瞳は俺の真意を見透かし、遥か遠くを見通している。


 それは時に、手が届きそうに近くて……。

 それは時に、手を伸ばすことも許されないほどに遠くて……。


 誰もがあなたを見つめ、あなたに見つめ返される。

 けれど、本当に全てを投げ出し、受け入れられるものはいない。

 

 俺の心の奥底を覗く瞳に、また、ゴクリと喉が鳴る。

 

「ずっと、一緒にいてくれるのか?」


 あなたから向けられた、まっすぐな瞳。

 熱を帯び、すがるようなその瞳に……俺は揺れてしまった。


「ああ……」


 ぎこちない返事だったろうと思う。

 俺は、あれほど願っていた光を、やっと手に入れた光を、手放してしまった。


「お前は、本当に優しいな」


 すべてを悟ったあなたは、小さくそう呟いた。

 悲しそうにフッと微笑んで、瞳の奥に映る光は、目の前で消えた。


 ……そうしてあなたは、いなくなった。

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