コスモスの丘で、宇宙(そら)に触れる
吹き上げる風に舞う髪が、紅を隠す。
髪の毛の一筋一筋が
手で抑える隙間から、ふと目線が合う。
「ここは、俺の特別な場所なんだ」
そう言って、ふわりと浮かべる微笑みに促され、眼下に広がる景色に視線を落とした。
そこは、一面のコスモスが咲き乱れる丘だった。
青と緑の間で、風に揺れ、淡くコスモスが散らばっている。
「ここに人を連れてきたのは、初めてだな」
「どうして、俺だったの?」
……あなたは、特別だ。
俺にとっても……周りの人間にとっても。
儚くも優しい光に触れたくて、誰もが近づき
だが、俺は知っている。
その柔らかな笑みの裏で、誰にも見せない一面があることを。
それは時に、すべてが壊れそうなほどに繊細で……。
それは時に、すべてを壊しそうなほどに獰猛で……。
あなたが奥深くに隠しているそれは、誰の手にも余るものだ。
静かに見つめる瞳に、こちらを伺う影がちらつく。
「……俺で良かったの?」
「お前だから、だよ」
ここは、その奥底に触れる場所なのだろうと感じた。
底知れぬ
ただ、同時に
まだ誰も知らないあなたに、触れるチャンスなのだと。
足元にしゃがんで、ピンクのコスモスに手を伸ばす。
花弁はしっとりと柔らかく、指に吸い付いてくるようだった。
どこまでも続くコスモス畑。
地平線の先まで混じるように続く、赤と白。
赤は、目の前で揺れるあなただ。
誘うように俺の心を掻き立て、決して消せない染みを作る。
白は、まだ何も知らない俺だ。
赤に焦がれ、憧れ、ただ手を伸ばす。
ピンクは、これから先の俺だ。
赤に触れ、傷付きつつも、より近く、深く色付くことを願う。
「まだ冬前とはいえ、少し寒かったかな」
ふと思い出したようにそう言って、ポケットからニットの帽子を差し出してきた。
瞳に、染まりゆく俺の姿が映る。
「……いいの?」
「いいよ、俺は使わないから」
初めてだ……あなたから、何かをもらったのは。
受け取った帽子は、
被ってみると、その柔らかさに脳が痺れてくる。
まるで、あなたに
頬が熱くなってきて、隠すように帽子を深く被った。
もうすぐ日暮れだ。
暮色に染まる空に、三日月と星が浮かびだす。
……ああ、綺麗だ。
この世界の、何もかもが。
あなたのいる、この景色が。
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