Last... 不穏な取引
一瞬、近場から【マシュロオオム】の微弱な気配を感じたが……そこに現れた『強大な存在感』に押し潰されるようにして、今度こそ【遺物】の気配は完全に消失した。
【遺物】の執念ぶりは警戒していたが……どうやら、それも杞憂に終わったようだ。
いや……。
それよりも、そいつを打ち消した『奴』のことをより警戒すべきかも知れない。
「さてと。ここら一帯から【マシュロオオム】の気配は消えた。早速、次の【遺物】を探しに行こうぜ」
「えっ、も、もう行くの? ちょっとだけ、休んでいかない……?」
「無理にとは言わねぇぞ。ただし、このまま留まっていたら警察ギルドに捕まっちまうだろうけどな」
「それは困りますぅっ! はぁ~……それにしても、何だか息つく間もないような怒涛の二日間だったねぇ……流石のボクもクタクタだよぉ」
「おい、ニロ……」
二日間に渡る緊張感から解放された反動からか、全身から力を抜いていたニロに「油断するな」と注意を促そうとした……次の瞬間。
「────いけませんよぉ。こんな死角だらけの場所で気を抜いていたらぁ」
「えっ……ぁぐァっ!?」
目にも止まらなく速さで、ニロの背後に人影が回り込む。
そいつは素早くニロの背後から腹に腕を回し、その首筋に鋭利なナイフを沿わせた。
一応、接近に気付いてはいたが、まさかこのタイミングで一気に距離を詰めてくるとは……。
「……何者だ、お前は?」
「お初にお目にかかりますぅ、魔王さぁん────私ぃ、警察ギルドのチグサって言いますぅ」
ニロや俺よりも背が高く、モデル体型に近い女。緑色のセミロングヘアの下から覗く水色の瞳は、何処か濁っているように見えた。おっとりとした口調に反して、その動きはまるで暗殺者のように洗練された技量を感じさせる。
警察ギルド……。
あのリゼとは、また別の意味で妙な威圧感を放っているようだ。
「しつこいねぇ、警察ギルド。ただ、妙だな? 他に味方は誰も居ないみてぇだが?」
「ぅふふっ……察しが良いですねぇ」
余裕綽々とした態度で、まるでこの状況を愉しんでいるかのように嗤っている。
一方、首にナイフを突き付けられたニロは、真っ青になった顔で目覚まし時計のように震えていた。
「お、おおおおおオヤビンんんん……ッ!」
「おっとぉ、動いちゃいけませんよぉ? あまりガタガタと騒ぐとぉ……この真っ白でプニプニしてて美味しそうな細い首をぉ────かっ捌いちゃいますよぉ?」
そんな恐ろしげな発言を口にしながら、ベロリっとニロの首筋を舌先で舐めてみせた。
最早、気が気じゃないのだろう。
ニロは発狂気味に悲痛な叫びを発していた。
「ひぃぃぃぃィィィィッ!? お助けヘルプミィィィィィィィィィィッッ!!!」
「とても警察ギルドのやり方とは思えねぇ野蛮な奴だな。何が目的だ?」
「ぅふふっ、流石は魔王さぁん。話が早くて助かりますぅ。いえいえ、とっても簡単な話ですよぉ。この私とぉ、一つ取引をしませんかぁ?」
「取引だぁ?」
なんだ……?
警察ギルドなら、ニロを人質にしてとっとと俺を取っ捕まえようとしてもおかしくないのだが……。
チグサは一層深い笑みを見せると、真っ青なニロの顔に頬擦りをしながら、囁くようにこう切り出すのだった。
「えぇ、これからあなたには────『とある人物』を、殺して貰いたい」
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