第15話:聖女(仮)が街にやって来た⑦
そう思いつつ、拙いながらも沙夜と共に礼を返したところ、アンジェラはきょとんとした様子で瞳を瞬かせた。おや、と見守っていると、横を向いて小さな声でぶつぶつ言い始める。
「……ちゃんと挨拶できるんだ……ワザとらしいとこがないから演技、ってセンはないわね……性根の悪さはどう隠したってバレるし……ていうか背後の人までおんなじ雰囲気ってどういうことよ、可愛いんだけど……!」
「「はい??」」
ほとんど聞こえないが、悪口を言われているわけではない、というのはわかる。だって隊長さん、今にもニッコリしそうなのを必死で堪えているような顔をしているし。
「納得したかい? こんな時節だ、疑心暗鬼になるのは致し方ないが、ご両人とも大変謙虚でおられるからね。決め付けてかかっては気の毒だよ」
「うっ!? ……こ、この二人が良い子なのは何となく分かりましたけど、まだ担ぎ上げられた説が残ってます!
聖女とか守り神とか、誰が言い出したんですかそんなの!? そうそう都合よく救い主が転がり込んでくるわけないでしょ!」
(わかるッ! ものすごくよくわかります、ていうか誰一人疑わないから逆に肩身が狭いです!!)
ここに来てやっと出くわせた疑問を呈する声に、待ってましたとばかり心で頷きまくる伊織だ。街でもそうだったが、みんな良い人すぎやしないだろうか。いいぞ隊長さん、もっと言ってやってください!
「うちの隊だって領主の私設騎士団に遠慮しながら、聞き取りとか地道にやってるんですよ!? 早いとこ解決して王都に戻らなきゃいけないのは私も同じだし、あの子の手紙は日に日に切羽詰まって来てるけど――って、何で嬉しそうなのよ、ちょっと」
「……はっ!? いやあの、すみません、ちゃんと冷静に疑ってくれる人がいてよかったなぁって」
「あーっもう! とにかく、私は認めてませんからね!! 実際に状況が改善した、って確信できるまでは疑ってくスタンスで行きます、別にその子達と先生のためじゃないですからね!? あくまでもうちの隊とか、私のメンツとかのためだからっ」
「はいはい。君も難儀だねえ」
綺麗な朱橙の髪をわしゃわしゃ搔きむしって、ツンデレのテンプレートみたいな宣言をぶちかますアンジェラである。応えるリアムが苦笑気味、かつ慣れた様子なところからして、普段からこういうやり取りをしているだろうことが見て取れる。仲が良くて何よりだ、うん。
賑やかなやり取りにほっこりしていたところ、ぶふっと小さく吹き出す声がした。いつの間に現れたのか、開けっぱなしていたドアの向こうで佇んでいる人影がある。そこそこの長身で、短い黒髪に黒い目、人懐こそうな明るい顔立ちをした青年だ。アンジェラと同じ服を着ているので、派遣騎士のひとりだろう。
「あっ、ちょっとギル! 来てたんなら見物してないで声かけなさい!」
「いやすいません、あんまり楽しそうだったんでつい。神官さん、お邪魔してます」
「やあ、元気そうで何より。彼は騎士隊でアンジェラ君の補佐についていまして」
「ギルバート・セイです、初めまして。うちの隊長が押しかけて申し訳ないっす。元気が有り余ってるだけで悪い人じゃないんで、勘弁してあげてください」
「は、はあ」
「こら! フォローになってないわよ!?」
あくまで軽い調子ながらも、きちんとリアムと伊織たちに挨拶してくれるのがマメだ。如才がないとはこういう人を言うんだろうな、と思っていると、さり気なくアンジェラの文句を聞き流したギルバートがぽん、と手を打った。今思い出した、という風情で、
「そうそう、行き会った神官さんに言伝を頼まれたんでした。――さっき街中で暴れたお嬢さん、目を覚ましたらしいっすよ」
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