第14話:聖女(仮)が街にやって来た⑥
なんとなく腕組みして考える。今呪いにかかっている人に関しては、沙夜の『おしろい』で解いてあげられるだろう。でも原因が分からないままだと、結局イタチごっこになってキリがない。どうにかして、呪いの発生源を突き止めなくては。
(……、あれ? そういや沙夜ちゃん)
記憶の端を、ちらっと小さなひらめきがかすめた気がした。思い出そうとして、斜め後ろでふわふわ浮いている相方を見上げたとき、
「――た、隊長さん、ご案内しますから! 聖女様が驚かれますから、もう少しお静かに!」
「分かってます、三歩残してお澄まししてから入ります!! わりと一刻を争うんです、失礼しますッ」
「もう一歩も残ってないです! わーっっ」
ばたああああん!!!!
「「ひゃあ!?」」
走る寸前くらいの足音と、何やら言い争う声が近づいてきたかと思うと、ものすごい勢いで扉が開いた。もう蝶番ごと吹っ飛ぶのではないかというほどの轟音に、そろって悲鳴を上げた異世界コンビが身を引く。そんな中、
「……アンジェラ君、ドアはもう少し静かに開けたまえ。急いで来てくれたのはわかるが」
「後で弁償するから問題ありません、それより先生!! 聖女と守り神が降臨したって聞いたんですけど!?」
困ったなぁと顔に書いてあるリアムに対して、真正面から言い返した上で詰問してきた相手。鮮やかな夕焼けや燃え盛る炎を連想させる、明るい朱橙色の髪。反対に澄んだ水面を思わせる紺碧の瞳は、猫のようにきゅっと吊り上がっている。芯のある声音同様、凛として整った顔立ちで、いかにも気が強そうな美人さんだ。歳はおそらく伊織と同じか、もう少し上といったところか。
そんな彼女は襟の詰まった軍服風の、ほとんど黒に見える藍色の上下に、かっちりしたブーツという出で立ちだった。ついでにその上から、床すれすれまであるマントを羽織っていて、こちらは服よりも明るい紺色だ。肩で留める金属のパーツに、大きくエンブレムが打ち出されている。
「……あのう、申し訳ありません。お引き止めしたんですが……」
「ああ、君のせいじゃないよ。アンジェラ君がその気になったら猫も杓子も、敵も味方も全部吹き飛ばされるんだ、うん」
「失礼なこと言わないでくださいっ!! 先生だってこうと決めたらテコでも動かないじゃないですか、ほっそいクセに根性だけは人一倍なんだからっっ」
「ほっといて下さい!! ……いや失敬、お見苦しいところを」
「い、いえいえ、とんでもない」
戸口からおずおずと言ってくる案内の人に、やたら気楽……というか、ほぼ諦めている口調でフォローするリアムだ。すかさず入った美人さんのツッコミもなかなかキレがあって、何となく長い付き合いなのはわかるのだが。
「リアムさん、先生もなさってるんですか?」
「ええ。といっても、子どもらに数年ほど魔術の基礎を教えるくらいなんだが」
「先生は先生です、みんなそう言ってるでしょ。アンジェラ・リンドグレーン、王立騎士団東南派遣部隊を任されています。初めまして」
「は、はじめまして」
自信に満ちた張りのある声で、はきはきと自己紹介して一礼する姿が大変カッコいい。あわてて立ち上がってお辞儀を返したものの、板についてなさ過ぎて恥ずかしい限りである。こんなことなら高校の時、就職希望者向けにあったマナー講座をちゃんと聞いとくんだった。
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