第13話:聖女(仮)が街にやって来た⑤
ほとんど、いや、もはや漫才そのもののやり取りである。さすがに予想外過ぎたらしく、横目で窺ったリアムは何だかぼう然とした顔になっていた。この状態でもちゃんと格好いいってすごいな、うらやましい。
「……ごほん。おそらく長年信仰を受けて、無自覚に神格が上がっていたのでしょう。我が国は多神教で、王都の大神殿で認められた正教以外にも数多の土着信仰が存在する。中にはミズハヒメのように、功績あって祀られた人の霊魂を神としているところもありますから。皆さんの信心の賜物ですね」
「は、はい! ありがとうございますっ」
嬉しそうにぺこっと頭を下げる沙夜が微笑ましい。先ほどはついついツッコミを入れてしまったが、つまりは皆が当たり前に神社を大事にしていた、ということなのだ。神社仏閣好きとして、そして彼女の友人代表として、こんな喜ばしいことはない。
伊織がほのぼのした気持ちで見守っていると、同じようにほほ笑んでいたリアムがふっと真面目な顔つきになって、居住まいを正した。
「本来ならば、ご郷里の皆さんに還るべき神徳だと重々承知しております。……だが悲しいかな、我々に打てる手は尽きつつある。一方で呪いの出所は未だに突き止められず、日々蝕まれた人々が増えていくばかりです。
イオリ殿、ミズハヒメ、恥を忍んでお頼みいたします。どうか何とぞ、民のためにお力添えを」
ソファに座っていなければ、その場に跪いていそうなほど丁重に頭を下げられる。……聖女云々はひとまず置いておくとして、ここまで真剣に頼まれて無碍にできるほど、二人は薄情ではなかった。
「……必ず撲滅する、って保証は出来ませんけど。わたしたちに出来ることがあるなら、お手伝いしたいです。ね、沙夜ちゃん」
「はい! 私もがんばります、これでも神様の端くれですから!」
「……! ありがとうございます!」
控えめだが前向きに返事をしてみせた異世界コンビに、緊張で強張っていたリアムの顔がぱっと明るくなった。年上の人からこんなに喜ばれると、それはそれでこそばゆいものがある。……あ、こら、そんな微笑ましそうな顔してこっちを見るんじゃない。沙夜。
「う、ごほん! じゃあ早速なんですけど、今までのことを教えてもらえますか? どんな感じで呪いが広まっていったか、とか」
「ええ、もちろんですとも。こちらをご覧ください」
照れ隠しに慣れない咳払いをして、真面目な顔で切り出してみる。その辺がバレているのかいないのか、とにかく神官殿はすぐにうなずいてくれた。装束の懐から取り出した巻物を広げると、随分年季の入った地図が現れる。少しゆがんだ台形の国と、隣接する国の一部が描かれていて、台形の下側には紅い点が散らばっていた。
「最初の被害はふた月ほど前でした。ここよりもっと南側にある、国境沿いの村落で発生しています。
村長の孫娘が紅い霧を吐くようになり、村の聖堂を管理する聖職者がいったん祓ったが、目を離したすきにいなくなったと。そのまま、杳として行方が知れないそうです」
そこからだんだん件数が増えて、場所も徐々に北上。聖職者がいなくて対応できず、その間に姿を消したり、最悪命を落としたケースもある。エルチェスターの周辺ではこのひと月で急増していて、さっきのお嬢さんで十三件目になるが、
「呪われるのが若い女性、ということ以外、共通点を見出せないのが現状です。生存している被害者は、強制的に眠らせていて意識がなく、聞き取りも出来ない。何より恐ろしいのは、エルチェスターが街道の要衝で、人とモノの流れに乗ってさらに拡散されるかもしれない、ということです」
……抑えた語調で淡々と説明されるせいで、余計に怖く感じてしまった。どうやら、思っていたよりもずっとのっぴきならない状況のようだ。
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