第2話:異世界は新米女神と共に②
長年に渡っていろいろあった親類と関わりを断つべく、全くゆかりのない地方都市に進学を決めたのが、昨年の春先のこと。幸い強いて引き留められるようなこともなく、奨学金の申請も無事受理されて、肝心かなめの試験にも見事合格を果たして。卒業とほぼ同時に引っ越し、思う存分ワクワクしながら新生活の準備に励んでいたのである。ほんの数分前までは。
「ええ~なんで~~……わたし子どもじゃないし、霊感ないし、全くもって美人じゃないしー……」
神社の境内ではあったから、これがいわゆる神隠しというやつか。だが好きで読み漁っていたファンタジー小説と、これまた好きで調べてみた民俗学方面の知識をさらっても、伊織がそうなりそうな要素はかけらも見当たらない。
年齢と素養は諸説あるとしても、特に三つ目については胸を張って断言しよう。なんせ物心ついてからこっち、街ですれ違った知人にことごとく気付いてもらえなかったくらい平凡な容姿なんだし……
「――あのう、大丈夫ですか?」
頭を抱えてうんうん言っていたら、ふいに澄んだ声がした。かなり驚いたが、同時に背中に添えられた手があやすように撫でてくれて、ほんのりとした温もりにほっとする。誰だか知らないがありがたい。
「気分はどうですか? 血行は良くなったと思うんだけど……」
「ああ、はい、あったかくなってきました。ありがとうござ――、へっ」
「えっ?」
振り返りながら言いかけたお礼が、間抜けな声とともに途切れた。中途半端に口を開けたまま、思わず相手をまじまじと見つめてしまう。
何故かこっちと同様、驚いた様子で目を丸くしているのは、伊織とほぼ同年代に見える女性だった。鈴を転がすような、という表現がぴったりの可愛らしい声に相応しく、色白で整った可憐な顔立ちをしている。そこまではまあ、いいのだが、
(この人、目が金色だ! 髪もラピスラズリみたいな色してる、すごくきれい!!)
コンタクトをはめたとか、人工的に染めたとかでは絶対あり得ない、見た瞬間に自然のものと分かる鮮やかな色彩だ。そんな容姿の彼女は、巫女装束とイブニングドレスを足して二で割ったような不思議な格好――それこそ和風ファンタジーの巫女とか女神とか、そういうキャラクターのごとき服装で、ついでにちょっと宙に浮いていた。鈴のついたアンクレットの光る細い足が、地面から四、五センチほど離れているのがわかる。
驚きと感動のあまり、目も口もポカーンと開いたハニワのような間抜け面をしていると、宙を漂う美人さんがようやっと口を開いた。おずおずとした調子で、
「……ええっと、あの、もしかして視えてます……?」
「えっ? は、はい、わりとばっちり」
「わああっ、やっぱり!! 誰かと目を合わせておしゃべりできるなんて四百年ぶりです、うれしいっ」
「よんっ……!?」
事実なのでしょうがない、と頷いてみせたら、ぱあっと顔を輝かせて飛びつかれてしまった。わりと遠慮なくぎゅうぎゅう抱き着かれながら、直前に聞いたとんでもない数字が気になってしょうがない。いくら人の少ない田舎だからって、引きこもりすぎにも程がありませんか!?
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