第1話:異世界は新米女神と共に①




 神社仏閣が好きだ。もうちょっと詳しく言うと、境内に漂っている雰囲気が好きだ。

 鳥居や山門をくぐると、古式ゆかしい立派な建物が出迎えてくれる。敷地の中や周囲に配された木々や、庭に咲いている草花の彩りが目に優しい。

 でも、特に目新しいものがなくても、なんとなく空気が澄んでいるというか。そこにいるだけで、清々しい気持ちになれるのがいい。何か嫌なことがあったときでも、馴染みにしている神社に参拝したり、足を運ぶのが難しければ画像を見たり。そうしていると自然に心が落ち着いて、気持ちの整理が出来るのだ。

 それが『だいぶ波乱に満ちているなぁ』と思う人生を過ごす中で、伊織いおりが身につけたライフハックなのだった。……が、

 (そう、そうなんだよ。そこまでは間違ってないんだ、うん)

 今までのことを反芻しながら、腕を組んでうんうんと頷いてみる。特に意味はない、落ち着くために馴染みのある仕草をしているだけだ。

 (だから今日も、新居の近所にある神社にお参りしたんだよね。これからよろしくお願いしますってことで)

 そう、そのはずだ。だから目を開けたら、こぢんまりした本殿とそれを囲む玉垣、敷地の向こうに畑と田んぼという田舎らしい風景が見えるはず。よし行くぞ、と気合いを入れて目を開けて、

 「……っ、だめだー!! どっからどう見ても森!! しかも人跡未踏っぽいやつー!!!」

 今度こそ頭を抱えて叫んだ伊織の目の前。そこには本人の言ったとおり、実に鬱蒼たる広葉樹の大森林が広がっていたりした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る