第92話 第二次世界大戦

 昭和14年8月25日

 平沼騏一郎ひらぬまきいちろう内閣は、日本とドイツの間の同盟締結協議の中止を閣議決定した。そして8月28日に内閣総辞職を行った。

「欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた」という名言いや、「迷言」を残して。


 イギリスとフランスは、ドイツに対抗すべく、ドイツとソビエトに挟まれたポーランドと8月25日に相互援助協定を締結。


 ドイツのリッペントロップ外相は、ソビエト社会主義国共和国連邦のモロトフ外相との不可侵協定を締結時に、秘密裏にポーランド分割の議定書を締結する。


 そして1939年(昭和14年)9月1日

 ナチスドイツの軍隊はポーランドの国境を越えた。

 ヒトラーは9月1日にポーランド国境付近のグライヴィッツ市のラジオ塔をヒトラー親衛隊に爆破させ、「これはポーランドによる攻撃」と自作自演のでっち上げを行い(クライヴィッツ事件)を理由として。


 ポーランド陸軍は後退を続け、そして9月3日にイギリスとフランスは8月25日に締結された相互援助協定によりドイツに対して「宣戦布告」を行った。


 第二次大戦が始まったのである


 ◇◇◇


 昭和14年8月末


 私(本間花音ほんまかのん)とホンモノの瞽女の石崎タツ、そして宝剣乃亜ほうけんのあ、そして奥山佑おくやまたすく少尉、「右翼の大物」の小林順一郎こばやしじゅんいちろうの5人は佐渡に渡るため、佐渡汽船の乗り場にいた。


 汽船乗り場は、私たちが未来の世界で見るような、大きなターミナルではない。

 乗る船は「第八佐渡丸」という船。

 遊覧船に毛が生えたような大きさだ。8月の日本海は静かだというけれど、きっとこれは揺れるだろう。


「酔い止めみたいなもの、ないですか?」


 右翼のおじちゃんは

「ほら、ウイスキーがあるから。酔ってしまえば、船酔いと同じだ」


 おいおい、未成年に酒を飲ませるのか!


 奥山少尉は「この人は酒に強そうだからそんなんじゃ酔わないだろう。芸妓の見習だし」


「そうか、ウイスキーじゃだめか……」

 違うっての!


「ねえ順ちゃん、ラムネ買って」

 と宝剣乃亜が小林順一郎氏に話しかけた


「よしよし、買ってあげよう。本間君にも、石崎君にも買おうかな」


「やったぜ!」

 この宝剣という子は、右翼の大物にまでなついてんのか!


 そう言って、ラムネを買ってもらって、第八佐渡丸に乗った。

 甲板かんぱんの上にベンチのような椅子があり、私と宝剣の小林氏で腰掛けた。

 石崎タツさんと奥山少尉は二人で中の客室に入っていった。


 船は佐渡に向けて出航した。


 しかし、あれだけ武器を持って、「共産主義者を探す」って物騒過ぎる。

 ドンパチやるつもりなのだろうか。


 小林順一郎氏には、そのような気配には見えない。

 さすが「右翼の大物」だ……

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