第88話 冒険者

昭和17年10月26日午前8時10分頃 アメリカ海軍 第16任務部隊

航空母艦USSエンタープライズ 無線室



 USSエンタープライズの外のスコールはしばらく前に止んでいた。


「USSホーネットからの救難信号。なんだか、いやな予感がするな」

「日本語の無線だ……なんだと!」

「通訳官!」


「暗号化されていない!日本語の通信だ。敵空母、敵戦艦発見……本艦の座標を言っている。それも日本語で堂々と、暗号も使わずに!クソ野郎どもが!」

「発見されたか!すぐにブリッジに報告しろ!」


「ちくしょう!スコールから出たらこのザマだ!」



 ◇

 航空母艦USSエンタープライズ 艦橋ブリッジ


「無線室から、本艦は発見された模様です」

「USSサウスダコタも発光信号で伝えています」

「ホーネットが炎上し着艦不能になった。エンタープライズで収容せよとの命令です」

「もうひとつ、悪い知らせが・・」

「なんだと?」

「敵空母に向かっていた攻撃隊が迎撃に遭い帰投するそうです。負傷者多数、燃料切れも近いとのこと」


「来ました、なにか様子が変です……」


「TBD、フラップが下がってない!」

「コッチに突っ込んでくるぞ!」


 攻撃隊のTBDは着艦フックを出したものの、アレスティング・ワイヤーを捉え損ねて、甲板から逸れて海に落下した。


ドボーンという大きな音がして海に転落した。


「救助急げ!」


 駆逐艦USSポーターが海上に墜落した飛行機の救助向かった。


 そしてポーターが不時着した飛行機に近づいた瞬間、

 ドーン


 大きな爆発音と、水柱があがる


 USSポーターが炎上しているではないか!


 攻撃機の魚雷が安全装置が外れていて、接近した駆逐艦が魚雷に接触して大爆発を起こしたのだ。


「あの、バカヤロウめが……」



「艦長! レーダーに機影…………おびただしい数です。JAP!」

「クソ!対空戦闘用意!敵機が来るぞ!」


 ◇

 航空母艦USSエンタープライズ 左舷対空砲


「前方に機影……JAPだ」

「撃ち方、始め!」


 オレンジ色の曳光弾が上空の日本軍機目がけて飛んでいく。


「急降下爆撃機!来ます!」

「はやく、打ち落とせ!」


 ババババ…………と機関砲が発射される

 が、その瞬間に爆弾が投下された。


「爆弾くるぞ!」


 ドーン……


 巨大な爆発音が響いた。対空砲が沈黙する

左舷ポートサイド被弾!火災発生、浸水しています!」


 USSエンタープライズに、被弾した箇所から勢いよく海水が流れ込んでいく。


「ケイト(九七式艦上攻撃機 中島製)来ます!」

「ちくしょう、まだやる気か!伏せろ!」


 しかし魚雷は運良く外れていった


 ドーン、ドーンという音数発聞こえる……


「敵の急降下爆撃機からの爆弾が、USSサウスダコタのブリッジに命中したもようです!サウスダコタ、ブリッジ炎上中!」


航空母艦USSエンタープライズ 艦橋ブリッジ


「サウスダコタの様子が変だ……こっちに向かってくるぞ」

「なんだと!」

「サウスダコタ、操艦不能の模様です!」

「発光信号を送れ!」

「ドンドン近づいてきます!」

「ちくしょう 面舵一杯!」

「衝突します!」


 ガガガガが……と大きな音を立て、USSエンタープライズにUSSサウスダコタが接触した。

 エンタープライズのブリッジから、大破して行動不能になった戦艦のブリッジが見える。


 サウスダコタもようやく操艦を復旧させ、大事に至らずに済んだのだが、もうアメリカ海軍はメチャクチャな状況であった。


 駆逐艦USSポーターは味方の駆逐艦の砲撃により自沈処分。

 軽巡洋艦USSサンファンも急降下爆撃により艦尾に爆弾が命中、大破炎上していた。


 ◇◇◇

 米領ハワイ オアフ島真珠湾

 アメリカ太平洋艦隊司令長官兼太平洋戦域 チェスター・W・ニミッツ最高司令官


「ホーネット大破炎上、エンタープライズも中破……あいつら何やってんだ!」


 ニミッツ提督は手にした電文を机に叩き付け

「クソ!」

 と大きな声で叫び、椅子を蹴飛ばした


◇◇◇

 10時10分頃

 航空母艦USSエンタープライズ 艦橋ブリッジ


「レーダーに敵機編隊……また攻撃機が来ます!」

「ガッデム! 本艦の速度は回復したのか?」


「海水をポンプでくみ上げていますが、まだ完全に回復していません」

「対空砲員はどうなんだ」

「負傷者が多数出ていて……」


「直掩隊を呼べ!」

「急降下爆撃、もうすぐ来ます!」

「クソ、またあいつらか!」


「対空砲が!あっ!」


 急降下爆撃機から投下された爆弾は、幸いにも海中に落ちた。爆発の水柱が上がる


「直掩隊は!」

「間に合いません!第二波の急降下爆撃来ます!」

「クソ、伏せろ!」


 九九式艦爆から爆弾が投下される。

 ◇

 USSエンタープライズ甲板 艦載機用エレベーター附近


「爆弾だ、クソ野郎! 早く逃げろ!」


ドーンという大音響で辺りの整備員が吹き飛ばされた。


「エレベータ大破しました……」


「また来るぞ!」


 九九式艦上爆撃機が投下した2発目の爆弾は、板張りの飛行甲板を突き破り、格納庫内で大爆発した。


 格納庫の爆発地点の辺りには水兵のバラバラになった死体がたくさん転がり、手足を吹き飛ばされた整備員がうめき声を上げて、衛生兵を呼んでいる。


午前11時30分

USSエンタープライズ 艦橋ブリッジ

 あちらこちらから煙が上がり、ブリッジには焦げ臭い臭いが漂う


「こん畜生め……」


「残存する航空隊を収容しないとなりません、艦長」

「わかった……とにかく着艦できる状態にしろ。エレベータは1機使用不能。航空隊を収容し、スペースがなくなったら、飛行機を遠慮無く海に落とせ! とにかく多くのパイロットを収容しろ、いいな!」


「了解……」


「南西に変針、両舷最大戦速」

「最大戦速、南西方面へ退避する!」

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