第87話 雀蜂

 昭和17年10月26日 午前6時55分 

 帝国海軍第三艦隊第一攻撃隊


「会敵予想時刻です、あっ」

「10時方向、敵艦隊発見 空母1、重巡1、その他 進路300 速力24ノット。突撃隊形をつくれ!」


 瑞鶴攻撃隊から信号弾が投下されていく、光と煙の帯が何本も空に走った


 ◇◇◇


アメリカ海軍 第17任務部隊 空母 USSホーネット


「敵機接近……レーダーにもの凄い数の敵機が!11時の方向から敵の大編隊です!」

直掩ちょくえん隊、11時の方向に向かえ!」


「まもなく、見えます!」

「なんだと!対空戦闘用意、対空砲員、戦闘配置につけ!」


「急降下爆撃機来ます!」

「クソッタレ! はやく弾幕張れ!」

「やってます!」


 ◇◇◇

 瑞鶴艦爆隊第二中隊



 敵艦隊の対空砲火が、もの凄い勢いで迫ってくる。


 目の前で炸裂する砲弾、黒い綿菓子が、ポン、ポンと弾けるように爆発している。

 オレンジ色の曳光弾が長い光の筋を描く

 操縦桿を持つ手が震える……


 「目標、前方の大型空母、甲板の中央に照準を合わせろ!」


 九九式艦上爆撃機の編隊は列をなして直下の大型空母めがけて降下している。


 飛行機の両翼がガタガタと震え、対空砲火が弾ける爆風で風防がガタガタと震えた。艦爆は速度をどんどん上げて、ブーンと音を立てて急降下していく。


 パイロットは目標高度の計器を見つめ、針がスーッと目標高度めがけて落ちていくのを確認した。


 「目標高度!爆弾投下!」


 九九式艦上爆撃機から一発の爆弾が放たれた。


  爆弾の後ろに付いているプロペラがクルクルと回転し、爆弾の安全装置を解除する


 パイロットは急降下制動ブレーキ板を下げ、操縦桿を目一杯手前に引いた

 ガタガタガタ、と空力ブレーキが震えながら、飛行機は上昇する。

 

 ◇◇◇

 アメリカ海軍 空母USSホーネット



「急降下爆撃機くるぞ!VAL(ヴァル・九九式艦爆)だ!」甲板員が叫ぶ

SHIT!逃げろ!」飛行甲板員は一斉に投下方向と反対に走り出した


 爆弾はドンと音をたてて、USSホーネットの飛行甲板を突き破って下に落ちた。

 中のハンガーには航空機と整備員がいて、天井を突き破って落ちてきた爆弾を見て「しまった!」と叫んだ。


 ドガーン!


 ハンガーの中で爆弾が大爆発を起こし、飛行甲板がめり上がって、バリバリッと裂けて吹き飛んだ。大きな孔があいて爆風、飛行機の破片、千切れた手や足、人の頭部が吹き出す。


 ハンガーの中の燃料や弾薬に引火し、ホーネットの格納庫は誘爆と、どす黒い煙、そして爆風で水兵が吹き飛ばされた。

 ハンガーの中の整備員は爆発でバラバラになって、手足が千切れて飛ぶ。


 USSホーネット艦橋ブリッジにも凄まじい衝撃が伝わった。

「ちくしょう!やられた、被害は!」

「解りません、死傷者大勢!火災発生、格納庫炎上中!」

「消火を急げ!」


「あっ、爆弾、また来ます!」

「なんだと!」


 一発、また一発と爆弾がホーネットの甲板を突き破り、爆発する


「オ・マイ・ガッ……」


「消火設備作動しません!水が出ません!」

「何でもいい、バケツでもなんでも使え!」


「あっ!」

「航空機、ブリッジに突っ込んできます」

総員EverybodyDown!せろ!」


 対空砲火で被弾した九九艦爆がブリッジ目がけて突っ込んできた。


 ドカーン

 爆音をたてて、煙突ファンネルに激突した。


 ホーネットの艦橋のガラスはバラバラに割れ、あたり一面に海図やらコーヒーカップが割れた破片などが散乱している。


「ちくしょう、なんてこった」

 立ち上がった士官の誰かが叫ぶ


「右方向から雷撃機Mabel(メイベル)、こっちにまっすぐ突っ込んできます!」


 ◇◇◇

 第三艦隊第一次攻撃隊 九七式艦上攻撃機


「前方の大型空母、対空砲火がありません」

「よし、目標は前方空母 雷撃用意、照準を合わせろ。いくぞ!」


 目の前の空母からどす黒い煙が立ち上っている。それも数本、火災の紅蓮の炎が飛行甲板の下から吹き出していた。


「空母捉えた! 高度よし、速度よし、魚雷投下!」


 九七式艦上攻撃から航空魚雷が投下され、ドボン、と海中めがけて航空魚雷が突っ込んでいく。


 次の攻撃機からも、次の攻撃からも、魚雷が次々と投下されていく


 ◇◇◇


 USSホーネット 飛行甲板 対空砲員


「正面から魚雷!」

「バカヤロウ!早く逃げろ!」


 ドーンというもの凄い振動で倒れ込んだ。


 魚雷はホーネットの船体を突き破り、ドン!と凄まじい爆発音を響かせた。

 魚雷が貫通した破孔から、海水が勢いよく流れ込む


 ◇

 USSホーネット 艦橋ブリッジ


「機関停止、浸水が広がっています、死傷者数百人規模です!……艦長、御決断を」

「総員退艦だ」

「了解、総員退艦!」


 そうしている間にも、火災から免れるため、水兵が次々と海に飛び込んでいた。

 ドボーン、バシャーンという音がブリッジにも聞こえてくる。


「くそったれ、JAPめ!やりやがったな!」


 ◇


 F4Fワイルドキャット 直掩隊


「マイ・ガッ……目の前から黒煙……ホーネットが炎上中!」

「なんだと!JAPはどこだ!」

「いません……去った後です……ホーネットから水兵が次々と海に飛び込んでいます……」


 直掩隊が見たモノは残った駆逐艦が、「か細い水」の放水で消火を行っているさまだった

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