第83話 敵空母艦隊発見

 昭和14年10月25日 第三艦隊 南雲忠一司令官


「敵の無線です。我々の艦隊を発見したと思われます」

「索敵機の航空無線か」

「電波の出力からそう思われます」

「了解した。第三艦隊、北へ転進!」



重巡洋艦熊野 艦橋 田中菊松大佐


「艦長、翔鶴から発光信号です。本艦隊は敵の索敵機に発見された模様です。北へ転進するとの命令です」


「了解した、北へ転進、取舵一杯」

「とーりかじ いっぱーい」


「両舷前進 第一戦速だいいっせんそく 回転五十四!」

 速力通信機テレグラフで主機の回転を上げる指示を送る。



 第三艦隊 南雲機動部隊は反転、北上する。


 ◇◇◇


 アメリカ海軍 USSエンタープライズ 攻撃隊


「索敵機の報告の地点です、もう燃料ぎりぎりです」

「艦隊は無線封止している。ここで敵戦闘機が来て増槽ドロップタンクを切り離したら艦に戻れないぞ」

「ちくしょう、どこ行きやがったんだJAPは!」

「艦に戻るぞ、航法士ナビゲーター!」



 アメリカは日本の機動部隊を発見した時は355マイル離れており、燃料はギリギリだったのであった。


 攻撃隊はUSSホーネットに帰還するも、途中燃料切れでゆっくりと海に落ちていく攻撃機、爆撃機が数機あった。

 そして燃料がなく、無理に着艦を試みて失敗する機も続出した。

 この作戦行動でF4F1機、SBD4機、TBF3機を喪失。


 その日の朝には着艦に失敗したF4Fワイルドキャットが駐機中のF4F 3機に激突して4機喪失している。この攻撃のロスにより12機を喪失することになった。


 ◇◇◇

 25日 朝9時

 山本五十六連合艦隊司令官は、ガダルカナル島航空基地に空襲を命令

 第二艦隊角田覚治司令官の零戦12機、九九艦爆12機からなる航空部隊はガダルカナル島ヘンダーソン飛行場を空襲。航空燃料火災を確認した。


 10時 前衛部隊索敵機から「米軍戦艦2-3、防空巡洋艦4、巡洋艦1、駆逐艦12、ツラギより方位160度、170浬」の電文が入る。

 しかし南雲忠一司令官の第三艦隊は北上しており、攻撃できないと返答する。


 このときの日本艦隊の配置は、機動部隊本隊(南雲長官)と前衛(阿部中将)の距離が50から60浬、第二航空戦隊ふくむ前進部隊(近藤長官)は機動部隊の西方100から120浬を行動していた。


 19時18分、連合艦隊電令作第354号

『陸軍は今夜19時、ガ島突入の予定にして、26日、敵艦隊はガ島南東海面に出現の算大なり。連合艦隊は26日敵艦隊を捕捉撃滅せんとす』

との命令が下る。


 ◇◇◇


 26日 深夜 0時

 重巡洋艦 熊野 甲板


よく晴れた夜である。南海の星が綺麗だが、当番の水兵は違和感を感じた。


「航空機のエンジン音か」

「敵だ!真上!」

「飛行艇!」

「爆弾くるぞ!」


 対空砲員は配置されていない。アメリカの索敵中のPBYカタリナ飛行艇から投下された爆弾がドボン、ドーンと水柱を上げた。

 瑞鶴の至近距離に落下するも被害はない。


 田中艦長は報告を受けた。

「敵索敵機に発見された模様です。敵の無線を傍受しました」

「南雲司令官から発光信号です。ガダルカナル島北東460km地点へ反転北上せよとのこと。日の出3時に索敵を行うと」

「了解と伝えてくれ」

「はい」


 3時45分 天候・晴 翔鶴から索敵機が飛び立っていく。


 4時50分 翔鶴の索敵機から無線が入った。


「敵空母サラトガ型1、戦艦2、巡洋艦4、駆逐艦16、針路北西」


この無線は熊野も受電した。


「いよいよ始まるぞ」

「はい」


 甲板の水兵は、熊野のメインマストに、スルスルと旭日旗(海軍旗)が昇っていくのを見守った。

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