第82話 決戦の火蓋

10月23日 重巡洋艦熊野 艦橋 田中菊松たなかきくまつ大佐



「まだ敵の空母艦隊は見つからないのか」

「はい」

「20日に伊176が輸送艦の護衛の艦隊を見つけたという話で、それ以降偵察情報はまったくない不気味だ」


 20日、第二艦隊(角田覚治かくたかくじ司令官)の空母 飛鷹ひようは火災発生により航行不能。トラック泊地に引き返すことになり、空母1隻の戦力が使用不能となった。司令官の旗艦は空母 隼鷹じゅんように移りガダルカナル攻撃で失った航空隊は補充され、他はラバウル基地に零戦、九九式艦爆は移動した。


 23日午前、南雲忠一司令官はガダルカナル島への総攻撃延期の報により艦隊を北へ移動させる方針を伝えた。

 熊野はこれに従い北上する。

 この機動部隊は南下と北上を繰り返していた。


 その23日から25日にかけて陸軍は海兵隊の飛行場を攻撃するも、2万人以上に増強された堅固な基地には、ジャングルで憔悴しきった陸軍兵にとって攻略は困難を極めた。

 そして24日21時に占領したとの報がもたらされる。


 艦内は勝利を祝ったが、25日午前2時に誤報だと解る。この誤報による落胆と遅々として進まない陸軍の作戦計画に海軍は苛立っていた。


 このような占領の誤報を受けて、海軍は外南洋部隊麾下の第6駆逐隊司令山田勇助大佐が指揮する駆逐艦暁、雷、白露と、第四水雷戦隊司令官高間完少将は、24日深夜から25日朝にかけてガダルカナル島泊地に突入する。


 ルンガ泊地で荷揚げ作業中のクレムソン級駆逐艦USS ゼインが荷揚げ作業で、海軍駆逐艦は近接して砲撃を仕掛けると逃亡し、反復してルンガ泊地に戻るとナバホ級曳船(タグボート)USSセミノールと木造漁船を徴用した哨戒艇USS YP-284を発見し、追撃してこれらを撃沈。海兵隊陣地に砲撃をするも、駆逐艦の砲の距離は短く反撃を受けて小破する。そして駆逐艦雷は飛行場から飛来したF4Fワイルドキャットによる機銃掃射を受けて死傷を出す。この第6駆逐艦隊は脱出する。

 第四水雷戦隊は旗艦駆逐艦秋月と軽巡洋艦由良も突撃を敢行するも、ヘンダーソン飛行場から飛来したSBDドーントレスとF4Fワイルドキャットの攻撃により軽巡洋艦由良は沈没する。そして旗艦秋月も中破し、旗艦は村雨に移り、ショートランド諸島への待避を決定した。


 ガダルカナル島付近での帝国海軍の攻撃が活発になってきたことに伴い、

 ついにアメリカ海軍空母艦隊は北上を開始する。


 仏領ヌーベル・カレドーニーの首府ヌーメアに本拠地を置いた南太平洋部隊司令官ハルゼー中将は、

 キンケイド少将が率いる第16任務部隊(旗艦USSエンタープライズ CV-6)

 マレー少将が率いる第17任務部隊(旗艦USSホーネット CV-8)

 の北上と日本海軍の邀撃を決定した。



 25日午前 ソロモン諸島の南東、サンタクルーズ諸島のエスペリトゥ・サント(Espiritu Santo)から哨戒任務にあたっていたPBYカタリナ飛行艇は日本の機動艦隊を発見

 そして水上機母艦USSカーティスも正午ごろに日本の機動艦隊を発見した。


 キンケイド少将はUSSエンタープライズからF4Fワイルドキャット、SBDドーントレス急降下爆撃機機、TBFアヴェンジャー雷撃機を発艦させる。


 しかし、この時点で日本海軍機動部隊は北側へ反転していた。

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