第81話 敵空母艦隊はいずこ

10月15日 重巡洋艦 熊野


 田中菊松たなかきくまつ艦長が放った偵察機は、見事、敵の輸送部隊を発見。 無線電は後続の南雲忠一空母艦隊指令官も把握した。


「艦載機発艦準備!」


 熊野の艦橋、甲板から、空母翔鶴から零戦と九九式艦上爆撃機、九七式艦上攻撃機が次々と飛び立っていくのが見えた。


 輸送艦隊の後ろにはかならず護衛艦隊、そして空母艦隊がいるはずである。


 ただしかし、この艦隊司令には陸軍参謀本部から度々の増援の遅延と、ラバウルの飛行場の海兵隊基地(ヘンダーソン飛行場)の総攻撃の遅延が伝えられ、南雲司令官はいらだちを隠せなかった。

「陸軍の参謀は何をやっているのか!これじゃ艦隊の燃料はもたないじゃないか!」


 海軍に対しては10月中旬頃と伝えられていた。それに併せて海軍は艦砲射撃でアメリカ海兵隊を焼き払っていたのである。

 次々と、アメリカ海軍がガダルカナルに輸送部隊を送っている状況で、一刻も早くアメリカ海兵隊殲滅しなければ意味がない。


 陸軍参謀本部辻政信中佐はジャングルでの戦いを甘く見ていた。進軍の速度、ジャングルでの武器、弾薬、食料の輸送が困難であることを。

 海軍に伝えた日程どおり進まず、たびたび総攻撃の遅延を連絡していたのである。



 空母から飛び立った攻撃隊により、「敵、軽巡1撃沈、輸送艦1大破」の報が入った。

 熊野の艦内は沸き立った。

(実際は駆逐艦USSメレディス撃沈、掃海艇USSヴィレオ中破)


 だが、それ以降、偵察機を飛ばしても敵艦隊は見えない。


 連合艦隊司令部は陸軍参謀本部に対し、艦隊の燃料と月齢から23日までには総攻撃を実施するよう伝えていた。

 陸軍と海軍の間には微妙な空気が流れつつあった。



 10月20日 サンクリストバル島東端の南100マイルにおいて、伊176潜水艦から敵艦隊発見の報を受電する。しかしそこには航空母艦はいない。

 伊号潜水艦は魚雷を発射し、重巡洋艦に命中、大破させた電文を送る。

 それ以降、追尾している潜水艦や偵察機からこの艦隊の連絡が入る。


 敵の空母艦隊はどこにいるのか、南雲忠一司令官は東方にいて、そちらから攻撃していくるのではないかと想定し、軽巡洋艦筑摩と駆逐艦照月を機動部隊から分離させて、南方200マイル付近に送り、哨戒させることとした。

 筑摩はアメリカ海軍の飛来した飛行艇から雷撃を受けるも損傷なく、23日には再び機動部隊本隊に合流する。


 10月23日 敵空母艦隊を発見できなかった連合艦隊は以下を発令する。


 1. ここの数日来、敵空母の所在不明。敵機動部隊に対し、サンタクルーズ島方面、とくに警戒の要ありと認む。

 2.  24日、X区哨戒機および二式飛行艇はなるべく早く発進し、かつ許す限り長く哨戒のことに取り計らわれたし。


 日本軍機動部隊は23日正午に前衛部隊を分離し、陸軍支援の態勢に入って南進するものの、ふたたび陸軍参謀本部から総攻撃の延期の連絡が入る。


「また総攻撃延期か!これではガダルカナル島で沖待ちだ。敵に見つかったら蜂の巣になるぞ」

 南雲忠一司令官は辻政信の連絡に激怒した。

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